8月31日。
車椅子を押す光輝くんの後をついていく。翼くんも、少し緊張した面持ちをしていた。
「……なんか、ごめんね光輝」
「それは、僕が翼の車椅子を押してることに対して? それとも、仲良しカップルの間に挟まれないといけなくなったことに対して?」
光輝くんが茶化して言うと、翼くんは明らかに困ったような顔をする。
「……ごめん」
「気にしないで。僕は大丈夫」
「…ありがとう」
「正直僕は、二人が付き合おうと別れようとどうでもいいんだよね」
光輝くんは大きな声でそう言ったけれど、本心ではない、たぶん。
「でも、二人が付き合おうと別れようと、この三人がバラバラになるのは無理。それだけは絶対無理」
これもきっと、彼なりの優しさなのだろうと思うと、自然と頬が緩んだ。
「わかってるよ」
翼くんも同じ気持ちなのか、笑って言った。
「ところで光輝」
「んー?」
「まさか、これ登るの?」
翼くんが車椅子に乗ったままでも行けるような場所。できれば、他の人がいないところがいい。それで光輝くんが場所を見つけてくると買って出てくれた。でも、場所に関しては光輝くんに一任していた私たち二人はまだどこなのか知らなくて、促されるままここまで来たのだけれど。
目の前にあるのは、長い長い階段。頂上なんて見えやしない。
「光輝くん、さすがにこれは…」
「どうせ見るならさ、高いとこの方がいいでしょ。ってことで、」
そんな不思議な理論を自信満々に言うと、彼は車椅子を一度固定して、翼くんをひょいっと持ち上げた。
「は!?」
突然のことに驚いた翼くんが声をあげる。
「大丈夫。上まで行ったらちゃんとベンチあるから」
「そういう問題!?」
そのまま、翼くんを抱えてスタスタと階段を登り始める。私は車椅子を近くの邪魔にならないところに移動させ、二人の後を追った。
10分後、頂上には小さな神社があった。まだまだ余裕そうな光輝くんは、気疲れしてしまったらしい翼くんをベンチに座らせる。
「っていうか翼、軽すぎじゃない? もっとちゃんと食べなよ」
「……お前の力が強すぎるんだよ」
「大丈夫? 二人とも」
「全然余裕。ありがとう、すずちゃん」
「俺意外と大丈夫じゃないかも……」
ただついてきただけの私とただ抱えられていただけの翼くんでも結構疲れたのに、何事もなかったかのように笑う光輝くんは怖い。細いのに、どこにそんな力があるというのか。
「ねぇ翼、すずちゃんも。前。見てみて」
「え?」
翼くんが顔を上げる。私もそれにならうと、そこからは夜空だけでなく、街中を一望することができた。
「ね、見晴らしもいいし、人も全然いないし。いい場所でしょ?」
光輝くんがそう悪戯っぽく笑う。
「すごい、綺麗」
花火はまだ上がっていないのに、思わずそう呟いた。
「ほんと、綺麗だな」
翼くんもその光景に目を奪われている。
「三人で、見られてよかった――」
翼くんの声は、打ち上がった花火にかき消された。