すずのことが、好き、だった。
でも俺が、全部台無しにした。
「最低だな、俺……」
病室を出る前の、すずと光輝の表情を思い出す。
自分でも、どうしてあんなことを言ってしまったのかわからない。
でも、もう歩けない俺に、彼女の隣に並ぶ資格はないんじゃないかと思った。車椅子なしでは生活できない人がそばにいるなんて、すずにとって、足枷以外の何物でもないと思った。きっと、俺なんかよりずっと、光輝の方が彼女に相応しいんじゃないかって。
こんなことになるなら、一度くらいちゃんと想いを伝えていればよかった。後悔は尽きない。でも、一度口から出てしまった言葉はもう、なかったことにはできない。
そのとき、廊下から、足音が聞こえてきた。タッタッと、走っているような音は、だんだんと近づいてくる。
「翼くん!」
彼女が、また、病室に駆け込んできた。ついさっき見た光景が出来上がる。
「……どうしたの、すず」
先程の罪悪感と気まずさで、素っ気ない響きになってしまう。
「翼くん、あのね、私、」
肩で息をしながら、彼女は何かを伝えようとする。
「さっきは、勝手なこと言ってごめんね。私、翼くんの気持ち何も考えられてなかった」
思えば、すずはずっとこうだったなって。
「でも、もう来なくていいとか、そんなこと言わないで。私、このままみんなバラバラになるなんて嫌だよ」
彼女は、こんな俺が、どこにいたって必ず見つけ出して手を差し伸べてくれた。
「翼くんの足がどうとか、そんなの関係ない」
すずが一生懸命伝えてくれる言葉のひとつひとつが乾いた心に落ちていく。
「それでね、翼くん、」
でも、待って。こういうことは、ちゃんと俺から言いたいから。
「待って、俺から言わせて」
まさか遮られるとは思っていなかったのか、彼女は不思議そうな顔をした。

「俺は、すずが好き」

彼女が予想外だという顔をするので思わず笑ってしまう。
「ずっと言えなくてごめん。あと、さっきは傷つけてごめん。でも、誰よりもすずのことを想ってる自信があるよ」
彼女の瞳からぽろぽろと涙が溢れてきた。それを優しく指で拭う。

「翼くん、」
「ん?」
彼女は涙で言葉を詰まらせる。俺は彼女の返事をじっと待った。
「――私も、翼くんが好き」
彼女は、花火のように明るく表情を綻ばせた。