「自分の席に座りなさい」
呆然とする中、担任の諸田先生がだるそうにやってきて、首から下げているホイッスルを鳴らす。
自分の席に着きたくない。
遠藤くんに背中を向けたくない。
みんなの気持ちが教室中に広がっている。
「話を聞くから、まずは座れ」
授業崩壊してるとでも数学教師に言われたのだろうか、不機嫌顔でまた指示をしたけど誰も動かない。
遠藤くんは視線を外にずらして広がる雲を見ている。
先生の顔に驚きとか恐怖はない。担任でも見えないんだ。
「座れる人だけ座ろうよ」
北沢が冷静な声を出して動き出し、遠藤くんの斜め前の席に座った。
さすが委員長。
それを見たら僕も動かないと、一生部活で北沢にコケにされそうで、勇気を出して坂井の腕を取って遠藤くんの隣である自分の席に緊張して座った。でもまだ勇気半分なのでまともに遠藤くんの方は見れず、なぜか北沢のうなじばかり見つめていた。
するとみんなも自然に座り出し、残り少数(ほぼ遠藤くんの前の席の人たち)だけ壁に貼りついていたけど、担任は無視して学級委員長の北沢に説明を求めた。
北沢は簡潔に話をする。
「授業中に遠藤くんが入ってきて、何も言わず自分の席に着いたのでみんなパニックになりました。他の先生と生徒には見えず私たちだけ見えます。ちなみに動画で撮ってみましたが映らなかったので証明はできません」
「まだそこに座ってるとでも言うのか?」
担任は不機嫌そうに僕たちにそう聞いた。
まぁ普通そうだよな。