「今さらなんだよ!」
「出てくんな!」
 遠藤くんをいじめていた今沢たちが、大声を上げながらまた物を投げつける。

 鋭い勢いで戦国時代の槍のように物がビュンビュンと飛び、生きてる人間ならまともに当たるとケガするレベルだったけど、それは遠藤くんの身体を通り過ぎていくだけで遠藤くんに被害はない。逆幽体離脱できるぐらいだから平気なんだろう。
   
 結果、今沢たちが息を切らして疲れるだけだった。

 なんだろ……これ。

 教室の変な沈黙を破ったのは、自称YouTuberの矢口だった。

「撮影していい?」って、ポケットからスマホを取り出した。

 今、こんな状況で?
 唖然としてるみんなを後にして、矢口は一歩前進して遠藤くんを撮影し始めた。

「YouTuberの勇気」
 坂井が引きまくって僕に言うけど、僕はチャレンジャー矢口に心の中で拍手を送る。叫んでばかりじゃ先に進めない。

 矢口は遠藤くんに礼儀正しく「ありがとう」と言って、撮影した画面を確認してから難しい顔をした。大岸くんが近寄ると、我も我もと矢口のスマホに群がりみんな覗きだす。そしてみんなは矢口と同じく不思議そうに首を傾げる。

「映らないんだ」
 スマホを覗けなかった僕らに向って、残念そうに矢口が教えてくれた。