会えないかもしれないけれど、几帳面な遠藤くんとの約束が僕は気になって、早朝の教室に来てしまった。

「あれから家に戻ったの?」
 僕がシャーペンを遠藤くんの机の上に置くと、遠藤くんは迷路を解きながらうなずく。

「カミングアウトにお姉ちゃんが怒ってた」と、照れたように言ったので僕は笑う。

「うちにも兄がいてさ」
「お兄さんっていいね」
「引きこもって一切姿を見せない」
「そうなんだ」
 兄の話を始めて人に話す。

「遠藤くんが最初事故って知らなくて、自殺するなら引きこもればよかったのにって思った」
「そっか、ごめん」
 遠藤くんはシャーペンを動かして、絶対解けない迷路を解いていた。

「でも一般論で、それもできない人もいるんだよ」
 寂しそうな顔でこっちを見たから、僕は「ごめん」と謝った。

「でも気持ちは嬉しいよ。昨日の北沢さんの話も嬉しかった」
 素直に僕はうなずいた。

 夏の朝の風が心地よく白いカーテンを揺らし、野球部の掛け声を僕らに届けてくれる。