シャワーを浴びるために静かに下に降りると、驚くことに両親がもう起きていて食卓テーブルに座っていたから「へっ?」と、変な声が出てしまった。
「シャワー浴びる」
両親を無視して洗面所へ行く途中で、父親が後を追いかけてきた。
「身体は大丈夫か?」
そう聞かれてうなずいて歯ブラシを手にする。
「お母さんが心配して、何度も息してるか確認してたぞ」
笑ってそう言って戻り、それ以上は何も聞かれなかったので、ありがたく感じた。
シャワーを浴びて早めの朝食を食べようとしていたら、母親の目がソワソワしていた。 昨日の話を聞きたい聞きたい。耳が長くなってるぞ。だから僕は先に軽くジャブを出す。
「母親LINEで話聞いてるんでしょ?どんな内容?」
「うーん」
父親も新聞から目を離して僕たちの会話を聞いていた。
「亡くなった子のご家族が教室にやってきたので、本人が現れて今回の事件は自分の不注意で事故でした。呪い殺す力はありません。って説明をして消えた。今後は出てこないから保護者会は必要ない、クラスのみんなも安心したので大丈夫……って内容」
「おぉ素晴らしい拍手」と、僕がふざけて言うと「そんな簡単な問題なの?」って目を吊り上げて怒っていた。
「そのまま大正解だよ」
しれっと返事をすると乱暴に僕の前に朝食を並べる。
「僕もまだ混乱してるとこあるし、寝すぎて頭回ってないからちょっと待ってて、それに……先に兄貴に説明したいし」
兄というワードに両親が目を丸くする。
「兄貴に昨日から相談していて、『直接話をしたいから聞いて』ってLINEしたら珍しく返事がきて『わかった』って書いてくれていて」
さりげなく言ったけど、言った本人も両親もけっこう興奮していた。
ほぼ家族断絶、家庭内別居状態の兄とコミュニケーションをとるなんて最大のニュースだから。
「お母さんとお父さんも一緒に聞きたい」
すがるような目をして母に聞かれたけど、僕はそれはまだハードルが高いと遠慮する。残念な顔をされたけど、朝から兄のいいニュースを聞いたのか母親の顔はほころんで笑顔全開だった。愛情深いけどわかりやすい性格だと思う。