「あんたみんなを恨んで呪うとかたたるとか、血を吐いて殺してやるとか言ってるんだって?」
 お姉さんは机に向かって言うけれど、さっき離れた本人はお姉さんの後ろで小さくなって首を横に振っていた。

「呪う、殺すじゃなくて……恨んで地獄に落とすって言ってました」
 大岸くんが遠慮がちにお姉さんに伝えると、お姉さんの顔が鬼のように怒りで変化した。

「あーきーひーろ!!お前が地獄に落ちろや!!!」
 今日イチの大きな声でそう叫ぶので、僕たちは声も出せずにお姉さんの圧に押され、倒れないように踏ん張っていた。

「みなさん驚いてるでしょう、やめなさい。きっと晃弘も驚いて困ってるわ」
 遠藤くんのお母さんは涙を拭いて、僕たちに頭を下げた。

「ごめんなさいね。今夜の保護者会の話を聞いてね、教室に晃弘が居るって噂を聞いたから、おばさん取り乱してしまったの、ごめんなさい」
 疲れて苦しんでいるのに、こんな僕たちにもう一度深く頭を下げる。

「みんなの気持ちの中に、晃弘のことがあったから、こんな幻覚のような混乱を呼んでしまったのね。ごめんね。みんな命を大切にしてね。悩みがあれば人に言って、言えなかったら不登校になってもいいんだよ。色んな方法があるからね。さっ帰ろう琴音。職場から飛んできたの?店長に怒られちゃうよ」

「お母さん」
 さっきまでの鬼の形相はどこへやら、遠藤くんのお姉さんは泣いて床に座り込み、その肩に優しくお母さんは手を添えた。

 僕たちは遠藤くんを責めたように見つめていた。

 これでいいのか?
 何か伝えることはないのか?

 遠藤くんの言葉を待っていたら、先に口を開いたのは北沢だった。