教室の扉の前には山のような野次馬の人だかりで、迫力のある3年生が「まだ来てねーのかよー」「見えねーぞ」と騒いでいた。丁度、矢口と一緒になったのでふたりで小さくなって教室に入った。
「配信見た」って言うと「さんきゅー」って返ってきた。
遠藤くんの姿はまだないけど、机が新しくなっていた。
昨日までのボロボロな机ではなく、新しい机にチェンジしていた。誰かが変えてくれたのかな、大岸くんか北沢か……ってとこかな。
「おはよー」
柑橘系の香りが北沢の声と一緒にやってきた。
「昨日内田くんラッキーだったね。私びしょ濡れだったよ。あれっ?机変えてくれたの?」
北沢は僕の顔を見ながら遠藤くんの机を指さした。
「いや僕じゃない。北沢だと思ってた」
僕は素直にそう言った。
「大岸くんか先生か……りっちゃんか彩菜かもしれない。よく気づくから」
「りっちゃんって須藤?」
「飯塚!いいかげん覚えてよ」
クールな委員長だと思っていたら、表情がコロコロ変わって楽しい発見だった。
「みんな生きててよかったね」
「うん。もっと休むかと思った」
「ひとりでいるより、みんなと一緒の方が安心するからじゃない?」
「なるほど。でもみんな寝むそー」
「寝れなかった人が多いんだよ。LINEガンガン鳴ってたし」
「北沢も寝不足?」
「ううん。オフにしてたもん」
「同じヤツがいた」
ふたりで同時に笑っていたら「うっちー」と、充血した目をして坂井が大きな身体を揺らしてやって来た。
「目が真っ赤だよ」北沢に指摘されて「寝てない。ずっとみんなでLINEしてたから」って朝から泣きそうな顔で訴える。
「髪洗うのも怖くて、ばーちゃんの介護用シャンプー借りて洗ってた。アレってスゲーわ。水なしでしっかり洗えるんだぞ」
「ほぼ丸刈りなのに?」
「コンディショナー使ってるよ俺」
当然のように答える坂井に「やっぱり乙女」と北沢が笑った。
「俺たち恨まれて復讐されて地獄に落ちるんだぞ」
真剣な顔に「ごめん」と北沢が謝ったけど坂井はムッとする。
すねた顔も乙女と思ったけど、言ったら怒られるから言わなかった。
そしてベルの音が鳴って少ししてから、担任が扉の野次馬を蹴散らして教室にやってきた。
それと同時に後ろの扉から遠藤くんもやってきた。