2週間前
自宅のマンションのベランダから飛び降りて、遠藤くんは死んでしまった。
遺書はなかったけど、自分のスマホメモにいじめられて生きているのが苦しい様子を残していたらしい。それでも遠藤くんの両親は悲しみのあまり自殺を認めず息子は事故と言い張ったので、学校側も悲しい事故として処理していた。僕たちは正直ホッとした。
葬儀は担任命令でクラス全員出席だった。
感情的な女子は泣いていたけど、それは遠藤くん個人との別れがどうのこうのではなく、死という儀式に酔って泣いてるだけだった。いじめていた今沢たちはこんな時でもバカ話をしていたし、僕たちも妙に冷めてイラついていた。
たぶん、たった2、3ヵ月で馴染まず現実離脱した遠藤くんに対して少し腹が立っていたのかもしれない。そして、人の死に対してそんな考えを持っている自分にまた腹が立って余計イライラしていたと思う。
担任の泣き声がご両親より大きかったのも嫌だった。ご両親が僕たちに気を使っていたのも嫌だった。遠藤くんの中学時代の友達の姿が見当たらなかったのも嫌だった。
ただその中で、遠藤くんのお姉さんが涙を見せず、強いまなざしで前を向いている姿になぜか救われていた。
遠藤くんは高校入学と共にこの街に転校してきたので、誰も遠藤くんのことを知らなかった。
ほんの数ヵ月の記憶だったけど、背が低くて声が高め。帰宅部。色白で運動音痴、学力普通で目立たず大人しく普通の男子だったと思う。
僕だって似たようなもので、ごくごく普通だったけど、これも普通の友達がいたから普通に過ごしていた。
普通普通って言うけど、普通ってなんだろう。
そんな普通の遠藤くんが、何がきっかけかわからないけどクラスの調子にのってる系の奴らに目を付けられて、とんでもない目に色々と合わされていた。
あっ、いじられてる?
ん?いじめられてる?
えっ?奴隷?
学校の購買に走るのはまだいい方で、走って10分のコンビニに汗だくになって走っていた。トイレで水をかけられていたこともあるし、授業直前に上靴を取られて窓から捨てられたこともある。
一番覚えているのは、僕らの罪の話。
お昼近くの英語の授業の時間。どこからかメモが回ってきた。
【至急回覧。教室の時計の11時55分ジャスト。遠藤にゴミをぶつけろ】
変な高揚感が教室にあふれていた。
周りを見れば消しゴムを半分にちぎったり、ノートの端を丸めている奴もいた。僕もその流れにのって、古くなった蛍光ペンのキャップをためらいながら手にする。
そして11時55分ジャスト。秒針が頂点を極めた瞬間『せーのっ!』と、誰かが声を出し、僕たちは何も考えず手にした小さな不用品を宙に飛ばして遠藤くんの席に悪意の雨を降らせた。
きょとんとした顔の遠藤くんの顔が面白くて、みんな笑った。
酷いことをしている事実は僕たちの心にはない。ただ高校に入って初めてクラス全体の一体感を持てた気がした。僕たちは変なドッキリ企画的を成功させただけで、悪意はなかった。
ウィルスのようにちょっとした悪戯心が広がっていた……って、言うのはただの言い訳で。
僕たちは加担した。
見て見ぬふりをした。
そのうち終わると思っていた。
誰かが止めても遠藤くんは微笑んでいた。
死ぬほど悩んでるとは思わなかった。
なすがままの遠藤くんにイラついた。
僕たちは加害者だ。