疲れた……。
怖かったけど
疲れた。
遠藤くんが消えた後は教室中が大騒ぎで、担任の大きな声も耳に入らず、女子の大半はカバンを持って一目散に叫びながら教室を出て行き、今沢たちは懲りずに自分たちの机までも遠藤くんの席に投げ飛ばし、最終的には仲間内のケンカが始まってしまい、担任が様子をうかがっていた数人の先生たちの手を借りて、まとめて職員室に連れて行かれた。
「部活休んでいいかな」
しれっと僕の前で聞こえたのは、ひとり残った女子で北沢の声だった。
教室に残ったのは
委員長の北沢と坂井と、賢い大岸くんとYouTuberの矢口と僕だった。
「いいんじゃない?うちのクラスはみんな休みで。あとから先生が説明すると思うよ」
スマホのカメラで荒れた教室の様子を撮影しながら矢口が言った。
「うっちー、一緒に帰ろう。みんなで帰ろうー。俺、ひとりで帰るの嫌だよ」
「坂井くんは柔道特待生で入学したんだよね」
「俺怖いのダメなんだよー。恨んで地獄に落とすって言ってなかった?あいつ……いや、遠藤くん!」
聞こえていたら困ると思ったのか、坂井は慌てて遠藤くんの名前を出した。
「あの金属音凄かったね」
僕が素直にそう言うと、みんなうなずいて苦い顔をした。
「せめて動画で撮れたらいいんだけど、さっきの金属音も取れてないし、静止画ならどうかなってカメラにしてもダメだった」
悲しそうに矢口は言うけど、こんな時にそんな挑戦をする矢口はやっぱりすごい。
「見えない人は信じないから。きっと、私たちが遠藤くんがいなくなって精神的にやられちゃって、集団催眠にかかったように心がやられてるってことで落ち着くと思うよ」
「俺も北沢さんと同じ意見。明日はカウンセラーがやってきて、それで終わり」
賢いふたりがいうと説得力ある。
「でも復讐されるー。ひとりで風呂入って髪洗ってる時に来たらどうすりゃいい?寝るときに来たらどうしよう」泣きそうな坂井の言葉に「夜中カメラセットして寝なきゃ。風呂は後からモザイクかな」と矢口がうなずく。