「最近白石さんとよくしゃべってるみたいだな、早川」
『青春してるなあ、こいついい奴なのに、すぐ人に壁をつくるから心配してたけど、ほっとした』
おいおい相田よ、なんで俺をそんな温かい目で見るんだ。俺は相田が相変わらず塔のように積まれた弁当を食べているのを眺めつつ、購買部で買ったパンを頬張る。
「いや、ソシャゲで推しキャラがいるみたいだから、その推しキャラのイベントの手伝いをしているだけだよ」
「そっかあ」
『早川、ソシャゲ以外に興味がなかったのに、ソシャゲを通して青春はじめたのか、本当によかったなあ』
だからその温かい眼差し辞めてくれないかな!? なんて。心が読めることを白状しないといけないから言えないけど。
俺は「いやいやいや」と手を振る。
「白石さんはたしかに無茶苦茶いい子だよ。ただ、お付き合いっていうのは可哀想だと思ったよ」
「どういうことだ?」
「んー……知らない人にしょっちゅう告白されてて、本気で困るみたいだった。俺が安全圏みたいになってるところで、俺がそういう目で見ているって思ったら、白石さんも困るだろ」
「そうか? 白石さんの言うことはいちいちもっともだけど、早川と白石さんに告白した連中は全然違うと思うぞ?」
「なんて??」
まあ……モテモテキングで、やろうと思えばハーレム主人公展開可能な相田が、弁当を受け取る以外のことは一切やらないし、誰も選ばないと公言しているんだから、そりゃモテモテの白石さんの気持ちだってわかるよなあとは理解するが。
俺と白石さんに寄ってきた連中が違うっていうのは……考えてみたけれど、白石さんに告白した連中は、皆いわゆるリア充という奴みたいだった。自分がフラれると考えてないような、キラキラした主人公みたいな連中。
そりゃ俺とは違うわあ。そう思ってへこんだら、相田はキョトンとした顔で、弁当をひとつ空にして、他の弁当を開きはじめた。
「なんか勘違いしてるっぽいから言うけど。白石さんだって、知らない人から告白されて、はいもいいえも言えないじゃないか。それでいて、フラれたら必然的に悪者にされる。男子は自分をフッた相手に対してそんなにやっかみの声は上げないけど、普通に陰口は流すしな。女子の場合は友達同士で徒党を組んで『どうしてフッたのか説明を求める』って言いに来たりする。どっちもフッたほうが悪者になって、何度も知らない相手の悪者を演じる羽目になったら嫌だろ」
『白石さんも苦労するよなあ。まあ、早川は白石さんの傷口を抉るような真似はしないと思うけどな』
だから、お前の俺に対する信頼値はいったいなによ????
でもまあ、それは理解した。白石さんは本気で告白されて困っていたんだから、それをモテキングの相田に説明されて、より納得した。でもなあ。
これって俺、なにかすることってあるのか? 俺はパンを食べ終えてから聞く。
「でもこういうのってさ、俺なんかできるのか? 白石さんに対して、なんにもできないと思うけど」
「それこそ、いきなり告白なんかせず、普通に仲良くしてればいいだろ。それだけで救われる気持ちってあるもんだから」
『頑張れ、早川』
「そっかあ……」
そんなの陰キャにはいくらなんでも荷が重くないか。
そう思っていたけれど、意外なところから流れ弾が飛んできた。
****
「はい、じゃんけんで負けたから、この原稿を早川くんと白石さんに印刷所まで届けに行ってもらいたいと思います!」
文芸部は文化祭に向けて、文芸誌をつくる。
だるんだるんで普段はソシャゲの周回しかしてないような部だけれど、不思議と締切破りはいない。
「だって、こっち終わらせないと自分の原稿終わらないし!」
『イベントと部活の原稿だったら、イベントの原稿の完成度を高めたくない!?』
「宿題は早く終わらせるタイプです」
『次のイベントの担当、推しなんだよ。徹夜するには課題は邪魔』
……などなど、あまりにもオタクあるあるが流れ込んでくるのに、俺は頭が痛くなってきていた。
「ちなみにネットで送るっていうのは……」
「あ、無理。デジタルとアナログ混合原稿だから、どちらかに合わせるとなったらアナログ。特に絵は自分でデジタルに変換するよりも、印刷所に任せたほうが綺麗な線が出るから」
「さようですか……」
地図を持たせてもらい、印刷したかなり思い原稿の束を抱えて、俺と白石さんは印刷所へと向かうことになった。
ただの部活動の一環だし、ふたりっきりで歩いたことはいくらでもあるけれど。白石さんはうきうきしているのが聞こえる声からもわかる。
『知らない場所は楽しいな、この辺りひとりだったら全然来ない』
「あー……もしかして白石さんは、印刷所に行くのは初めて?
「そういう早川くんは?」
「さっさと高校入学決めたせいで、卒業文集係になったから、印刷所まで原稿届けに行ったことがある」
「すごいね」
『すごいね』
「いやいや、ただ届けに行っただけだから。ところで、白石さんは部誌になに描いたの? 推しキャラ?」
「うん! 四ページマンガ描いたよ。マンガは初めて描いたけど楽しかった」
『推しができると、マンガも描けるんだなあ』
そうにこにこ笑って言う白石さんに、俺も釣られて笑う。
俺はマンガ描けないし、だからと言って小説も書けないから、意味がわかると怖い話を二行ずつまとめただけの代物だった。きちんと創作している白石さんは偉い。
しかし推しキャラってことは、ソシャゲのキャラを描いたのか。
「この間からやってるソシャゲの?」
「うん。可愛かったから、一生懸命調べて描いたの」
「えっ、読みたい。原稿見られるかな」
「駄目、印刷できたら真っ先に見せてあげるから。あっ、あそこ?」
だんだん印刷所が見えてきた。
この辺りの学校や会社をターゲットとしている印刷所は、今日も冊子をつくりたい人たちで賑わっていた。
俺たちが学校の名前を出し、原稿を渡すと、受付の人が「それじゃあ、印刷が終わり次第宅配便で送りますからね」と言ってくれた。
さっきまで紙束が重かったのに、今は荷物もなくて軽々だ。帰りにふたりでコンビニにより、アイスを買った。
「なんのアイス買ったの?」
「ソーダキャンディー。早川くんは?」
「梨味のキャンディー」
「えっ!? 売ってた!?」
「ラスト一本だった」
「食べたい食べたい食べたい食べたい!」
「えー……でも間接キスは、いろいろとこう、駄目だろ……」
そんな陰キャと白石さんを間接キスさせる訳には……。俺がドギマギしていたら、俺がビニールを剥いたばかりの梨味キャンディーをそのままシャクッと音を立てて囓ってしまった。結構噛みつかれたあとを、俺は呆然と眺める。
「ええっと……」
「近所だったら梨味、全然売ってなかったんだあ。久々の梨味おいしい……あっ、早川くんもソーダキャンディーどうぞー」
そう言って白石さんはビニールを剥いてソーダキャンディーを見せてくれた。
言ってるんだからいいじゃん。あと本気で裏表ないからからかってもいないじゃん。そう思うものの。
いや、陰キャがそれで調子に乗ったら、いろいろとこう、駄目だろという気持ちのほうが強い。
「お、れは……結構です。梨味キャンディー、おいしいな、ははっ」
「どうしてカタコト?」
「ホント、だいじょぶだから。うん」
俺が必死で首振り人形になっていて、白石さんは首を捻っていたものの、すぐに「食べちゃうよー」と言いながらソーダキャンディーを食べはじめてしまった。
俺は必死で白石さんと間接キスしないように場所を選んで囓り、残りは溶けてコンクリートに染み込んでしまうのを眺めていた。
……うん、陰キャは調子に乗ったらいけない。
『なんで?』
「へっ?」
「なんでもないよ?」
一瞬白石さんから声が聞こえたけれど、白石さんがソーダキャンディーを一生懸命食べるものだから、どういう意味か聞きそびれてしまった。
『青春してるなあ、こいついい奴なのに、すぐ人に壁をつくるから心配してたけど、ほっとした』
おいおい相田よ、なんで俺をそんな温かい目で見るんだ。俺は相田が相変わらず塔のように積まれた弁当を食べているのを眺めつつ、購買部で買ったパンを頬張る。
「いや、ソシャゲで推しキャラがいるみたいだから、その推しキャラのイベントの手伝いをしているだけだよ」
「そっかあ」
『早川、ソシャゲ以外に興味がなかったのに、ソシャゲを通して青春はじめたのか、本当によかったなあ』
だからその温かい眼差し辞めてくれないかな!? なんて。心が読めることを白状しないといけないから言えないけど。
俺は「いやいやいや」と手を振る。
「白石さんはたしかに無茶苦茶いい子だよ。ただ、お付き合いっていうのは可哀想だと思ったよ」
「どういうことだ?」
「んー……知らない人にしょっちゅう告白されてて、本気で困るみたいだった。俺が安全圏みたいになってるところで、俺がそういう目で見ているって思ったら、白石さんも困るだろ」
「そうか? 白石さんの言うことはいちいちもっともだけど、早川と白石さんに告白した連中は全然違うと思うぞ?」
「なんて??」
まあ……モテモテキングで、やろうと思えばハーレム主人公展開可能な相田が、弁当を受け取る以外のことは一切やらないし、誰も選ばないと公言しているんだから、そりゃモテモテの白石さんの気持ちだってわかるよなあとは理解するが。
俺と白石さんに寄ってきた連中が違うっていうのは……考えてみたけれど、白石さんに告白した連中は、皆いわゆるリア充という奴みたいだった。自分がフラれると考えてないような、キラキラした主人公みたいな連中。
そりゃ俺とは違うわあ。そう思ってへこんだら、相田はキョトンとした顔で、弁当をひとつ空にして、他の弁当を開きはじめた。
「なんか勘違いしてるっぽいから言うけど。白石さんだって、知らない人から告白されて、はいもいいえも言えないじゃないか。それでいて、フラれたら必然的に悪者にされる。男子は自分をフッた相手に対してそんなにやっかみの声は上げないけど、普通に陰口は流すしな。女子の場合は友達同士で徒党を組んで『どうしてフッたのか説明を求める』って言いに来たりする。どっちもフッたほうが悪者になって、何度も知らない相手の悪者を演じる羽目になったら嫌だろ」
『白石さんも苦労するよなあ。まあ、早川は白石さんの傷口を抉るような真似はしないと思うけどな』
だから、お前の俺に対する信頼値はいったいなによ????
でもまあ、それは理解した。白石さんは本気で告白されて困っていたんだから、それをモテキングの相田に説明されて、より納得した。でもなあ。
これって俺、なにかすることってあるのか? 俺はパンを食べ終えてから聞く。
「でもこういうのってさ、俺なんかできるのか? 白石さんに対して、なんにもできないと思うけど」
「それこそ、いきなり告白なんかせず、普通に仲良くしてればいいだろ。それだけで救われる気持ちってあるもんだから」
『頑張れ、早川』
「そっかあ……」
そんなの陰キャにはいくらなんでも荷が重くないか。
そう思っていたけれど、意外なところから流れ弾が飛んできた。
****
「はい、じゃんけんで負けたから、この原稿を早川くんと白石さんに印刷所まで届けに行ってもらいたいと思います!」
文芸部は文化祭に向けて、文芸誌をつくる。
だるんだるんで普段はソシャゲの周回しかしてないような部だけれど、不思議と締切破りはいない。
「だって、こっち終わらせないと自分の原稿終わらないし!」
『イベントと部活の原稿だったら、イベントの原稿の完成度を高めたくない!?』
「宿題は早く終わらせるタイプです」
『次のイベントの担当、推しなんだよ。徹夜するには課題は邪魔』
……などなど、あまりにもオタクあるあるが流れ込んでくるのに、俺は頭が痛くなってきていた。
「ちなみにネットで送るっていうのは……」
「あ、無理。デジタルとアナログ混合原稿だから、どちらかに合わせるとなったらアナログ。特に絵は自分でデジタルに変換するよりも、印刷所に任せたほうが綺麗な線が出るから」
「さようですか……」
地図を持たせてもらい、印刷したかなり思い原稿の束を抱えて、俺と白石さんは印刷所へと向かうことになった。
ただの部活動の一環だし、ふたりっきりで歩いたことはいくらでもあるけれど。白石さんはうきうきしているのが聞こえる声からもわかる。
『知らない場所は楽しいな、この辺りひとりだったら全然来ない』
「あー……もしかして白石さんは、印刷所に行くのは初めて?
「そういう早川くんは?」
「さっさと高校入学決めたせいで、卒業文集係になったから、印刷所まで原稿届けに行ったことがある」
「すごいね」
『すごいね』
「いやいや、ただ届けに行っただけだから。ところで、白石さんは部誌になに描いたの? 推しキャラ?」
「うん! 四ページマンガ描いたよ。マンガは初めて描いたけど楽しかった」
『推しができると、マンガも描けるんだなあ』
そうにこにこ笑って言う白石さんに、俺も釣られて笑う。
俺はマンガ描けないし、だからと言って小説も書けないから、意味がわかると怖い話を二行ずつまとめただけの代物だった。きちんと創作している白石さんは偉い。
しかし推しキャラってことは、ソシャゲのキャラを描いたのか。
「この間からやってるソシャゲの?」
「うん。可愛かったから、一生懸命調べて描いたの」
「えっ、読みたい。原稿見られるかな」
「駄目、印刷できたら真っ先に見せてあげるから。あっ、あそこ?」
だんだん印刷所が見えてきた。
この辺りの学校や会社をターゲットとしている印刷所は、今日も冊子をつくりたい人たちで賑わっていた。
俺たちが学校の名前を出し、原稿を渡すと、受付の人が「それじゃあ、印刷が終わり次第宅配便で送りますからね」と言ってくれた。
さっきまで紙束が重かったのに、今は荷物もなくて軽々だ。帰りにふたりでコンビニにより、アイスを買った。
「なんのアイス買ったの?」
「ソーダキャンディー。早川くんは?」
「梨味のキャンディー」
「えっ!? 売ってた!?」
「ラスト一本だった」
「食べたい食べたい食べたい食べたい!」
「えー……でも間接キスは、いろいろとこう、駄目だろ……」
そんな陰キャと白石さんを間接キスさせる訳には……。俺がドギマギしていたら、俺がビニールを剥いたばかりの梨味キャンディーをそのままシャクッと音を立てて囓ってしまった。結構噛みつかれたあとを、俺は呆然と眺める。
「ええっと……」
「近所だったら梨味、全然売ってなかったんだあ。久々の梨味おいしい……あっ、早川くんもソーダキャンディーどうぞー」
そう言って白石さんはビニールを剥いてソーダキャンディーを見せてくれた。
言ってるんだからいいじゃん。あと本気で裏表ないからからかってもいないじゃん。そう思うものの。
いや、陰キャがそれで調子に乗ったら、いろいろとこう、駄目だろという気持ちのほうが強い。
「お、れは……結構です。梨味キャンディー、おいしいな、ははっ」
「どうしてカタコト?」
「ホント、だいじょぶだから。うん」
俺が必死で首振り人形になっていて、白石さんは首を捻っていたものの、すぐに「食べちゃうよー」と言いながらソーダキャンディーを食べはじめてしまった。
俺は必死で白石さんと間接キスしないように場所を選んで囓り、残りは溶けてコンクリートに染み込んでしまうのを眺めていた。
……うん、陰キャは調子に乗ったらいけない。
『なんで?』
「へっ?」
「なんでもないよ?」
一瞬白石さんから声が聞こえたけれど、白石さんがソーダキャンディーを一生懸命食べるものだから、どういう意味か聞きそびれてしまった。