白石さんはソシャゲ初心者で右も左もわかっていないから、ひとまず俺は自分のアカウントを見せた。
「俺とフレンド登録する?」
「フレンド登録するとどうなるの?」
『フレンド登録するとどうなるの?』
うん、本当に面白いくらいに裏表がないな。俺は噴き出しそうになりながら、説明をした。
「フレンド登録すると、フレンドのキャラを借りることができるから、ゲーム内バトルが有利になるんだよ。あ、でもこれ、知り合いとじゃないとしちゃ駄目だからな?」
「どうして?」
『どうして?』
「たまにあるんだよ。自分のアカウントよりもレアなキャラがいるとか、強いキャラがいるとか、推しがいるとか妬んで、アカウント乗っ取っちゃうのが。その対策として、基本的に知り合い以外にはフレンド登録しないの」
「わかった」
『初めてしゃべるけど、いい人だな』
そう心の声が聞こえて、俺は悶えそうになる。
あーあーあーあー……そういう勘違いのさせ方は、よくないと思う! 俺みたいなひねくれ者がすぐ勘違いするから!
俺がジタバタしそうになるものの、白石さんはキョトンとしたままだ。
「あ……そういえば、名前聞いてない」
『ごめんなさい、まだ他のクラスの子の名前と顔が一致してない』
「あー……こっちこそお節介してたのに、ごめん。俺は早川。一方的に知っててごめん」
「ううん、早川くんね。覚えた」
『ううん、早川くんね。覚えた』
そう言ってにっこりと笑った。
俺は思わず顔が緩みそうになるのは、白石さんが本当に裏表がなくいい子だからだ。ただ。
周りは呆気に取られた顔をしたままだった。
「……早川氏、やるな」
「あのマイナスイオン様が、笑みを……」
『マイナスイオン様はオタクじゃないのに、オタクに優しいギャルは実在したのか!? マイナスイオン様はギャルじゃないけど!』
『かわゆい、仰げば尊し、白石の御……』
『うわっ、まぶしっ。早川氏はハゲろっ』
なんだか好き勝手言われていた。
でも白石さん、こんないい子なのになんで文芸部にいるんだ? ここ、本当にオタクの溜まり場なのに、本人は全然オタクの雰囲気がない。
他の部の事情にはいまいち詳しくない俺は、ただなんでだろうと首を捻っていた。
****
今日も今日とて、昼休みになると積み上がっている。
「あ、相田くん! これ! 受け取ってください!」
『早起きしてつくったお弁当食べてぇぇぇぇ!!』
「ああ、ありがとう」
『申し訳ないなあ、これ全部食べられるかな』
昼休みになると、相田のファンの女子が次から次へとやってきて、相田に弁当をプレゼントしていく。中には『相田くんに私の××××を!』というヤバメな女子がいて、それは俺がわざと引っ繰り返して食べれなくしているものの、それ以外は割と女子が必死につくったものだから、それを相田は必死に食べている。
あまりに必死に食べているもんだから、ときどきたまりかねて「俺も一緒に食べるか?」と尋ねると、それに相田は首を振る。
「それは悪いだろ。俺に時間をつくってくれたのに」
『人の時間を奪ったんだから、ちゃんと食べるのが義務だよな』
裏表なくイケメンムーブをするものだから、そりゃ女子が惚れるよなあと納得する。
周りの男子のひがみはすごいが。
『相田、B組のきょぬー女子から弁当を! もげろ!』
『腹壊せ!』
『タダ飯いいな……ソシャゲで小遣い使い込んでもう今月水で凌ぐしかないわ』
だからちょいちょい混ざるソシャゲ好きはなんなんだよ。それはさておいて。
「なあ、相田。お前あちこちに助っ人言ってるなら、他クラスにも知り合いいるだろ?」
「ああいるぞー」
「あのさ、C組の白石さんって知ってる?」
「うん、知ってるぞ。無茶苦茶可愛い子だな」
ああ、やっぱり知ってたか。
相田は相変わらず裏表ない言葉で語り出す。
「すごく可愛い子だけれど、何故かひとりでいることが多いなあ……誤解を招きやすいというか」
「なんでまた?」
「感情表現が下手なんじゃないかな。無愛想がられることが多いみたいだけど……前にバレー部に助っ人行った奴が白石さんにフラれたとか言ってた」
「……フるのか、あの子が」
白石さんは言っていることに裏表がないし、そこまで遺恨が残るような物言いをするとは思えないんだけど。相田は「あくまでそいつの証言だけどな」と言い置いてから続けた。
「告白したら『なんで?』と冷たいこと言われて話を打ち切られたって」
「ええ……」
あの子がそこまで冷たいこと言うか?
いや、俺は心の声が聞こえるから、素直な子に聞こえるが。あの子は大概しゃべり方が淡泊なんだ。全部聞かなかったら「なんで?」と聞かれても返答に困るのか。
相田は女子のつくったお弁当箱そのいちをカラにしてから、他の弁当箱に手を伸ばし、唐揚げを放り込んだ。これ、母さんのつくった弁当に入ってた冷凍唐揚げだな、あれ美味いよなとぼんやりと思っていたら「そのせいかな」と相田が言う。
「なんか白石さん、おかしなあだ名が付いてて」
「マジか。なんて」
「マイナスイオン様」
「……なんで?」
「なんでもばっさばっさとフり続けるせいで、すっかりと男子に脅えられてる。そういえば、お前と同じ部じゃなかったのか?」
「あー……」
基本的にオタクは三次元女子と素直におしゃべりできないから、白石さんに告白どころかまともに声かけすらできないんだ。俺も普段からソシャゲに勤しんでいたから、彼女が同じ部活にいることすら知らなかったし。
うーん……あんな裏表ない子がひとりでいるのは、ちょっと寂しいかもしれない。
「なんとかならないかな、白石さん」
「おっ、お前女子の話をするの初めてじゃないのか?」
「えっ?」
そりゃ女子は本音と建前が一致しなさ過ぎて怖いとは、今も昔も変わらず思っているけれど。でも白石さんは本当に珍しく本音と建前が一致していて、こちらが吐き気を催すようなギャップがないから、見ていても安心するし、しゃべっていても可愛いと思う。
でも、なんで相田がそれにニヤニヤしてくるのかね。相田はこちらを、新しい弁当に焼きおにぎりを頬張りながらニッコリと笑った。
「もし早川が付き合い出したら、コンビニで赤飯おにぎりおごってやるからな!」
「そんな恥ずかしい祝われ方嫌じゃ!? というより、生涯恋愛しない宣言しているお前に祝われると、むっちゃ怖いんですけど!?」
「いや、俺もいつかは誰かを本気で守りたいと思うかもしれないから、生涯恋愛しない宣言はしてないぞ。今のまだ誰かひとりを守りきれない俺が、その子の全責任を取れないのに軽はずみなことなんて言える訳ないだろ」
「そういう結婚を前提にお付き合いはじめましょうとか素で言えるお前が怖いわっ!?」
俺がギャーギャーと言っている中でも、周りは相田の言葉をざわっとしながら見守っていた。
『相田くんが本気で守りたい女の子ってなに!?』
『硬派。本当に世の中の男に相田くんの爪の垢を飲まして回りたい』
『わーい、私のお弁当食べてくれたあ』
しかし、相田のことはさておいて、白石さんのことどうしよう。
どうも周りに誤解されてるっぽいし。そんなのイチオタクの俺がどうこうできるもんでもないような気がする……と、そのときスマホのアプリがピコンと鳴った。
今ちょうどスマホ内イベントで、レイドバトルが開催中なんだ。
「あ、ごめん。ちょっとソシャゲしていい?」
「お前相変わらず好きだな、それ。面白い?」
「今ちょうど、フレンド枠にひとり追加したところ」
「ふーん」
白石さんのアカウントをちらっと覗くと、本人がソシャゲのキャラを引き当てたみたいだった。低レアではないけれど、高レアでもない彼女の描いていたキャラをご満悦にパートナーとして頑張ってソシャゲをしているみたいだ。
俺はそのキャラに似たタイプのキャラを貸し出せるように設定しておいた。一緒にゲームできたら楽しいと、ほんの少しだけ思いながら。
「俺とフレンド登録する?」
「フレンド登録するとどうなるの?」
『フレンド登録するとどうなるの?』
うん、本当に面白いくらいに裏表がないな。俺は噴き出しそうになりながら、説明をした。
「フレンド登録すると、フレンドのキャラを借りることができるから、ゲーム内バトルが有利になるんだよ。あ、でもこれ、知り合いとじゃないとしちゃ駄目だからな?」
「どうして?」
『どうして?』
「たまにあるんだよ。自分のアカウントよりもレアなキャラがいるとか、強いキャラがいるとか、推しがいるとか妬んで、アカウント乗っ取っちゃうのが。その対策として、基本的に知り合い以外にはフレンド登録しないの」
「わかった」
『初めてしゃべるけど、いい人だな』
そう心の声が聞こえて、俺は悶えそうになる。
あーあーあーあー……そういう勘違いのさせ方は、よくないと思う! 俺みたいなひねくれ者がすぐ勘違いするから!
俺がジタバタしそうになるものの、白石さんはキョトンとしたままだ。
「あ……そういえば、名前聞いてない」
『ごめんなさい、まだ他のクラスの子の名前と顔が一致してない』
「あー……こっちこそお節介してたのに、ごめん。俺は早川。一方的に知っててごめん」
「ううん、早川くんね。覚えた」
『ううん、早川くんね。覚えた』
そう言ってにっこりと笑った。
俺は思わず顔が緩みそうになるのは、白石さんが本当に裏表がなくいい子だからだ。ただ。
周りは呆気に取られた顔をしたままだった。
「……早川氏、やるな」
「あのマイナスイオン様が、笑みを……」
『マイナスイオン様はオタクじゃないのに、オタクに優しいギャルは実在したのか!? マイナスイオン様はギャルじゃないけど!』
『かわゆい、仰げば尊し、白石の御……』
『うわっ、まぶしっ。早川氏はハゲろっ』
なんだか好き勝手言われていた。
でも白石さん、こんないい子なのになんで文芸部にいるんだ? ここ、本当にオタクの溜まり場なのに、本人は全然オタクの雰囲気がない。
他の部の事情にはいまいち詳しくない俺は、ただなんでだろうと首を捻っていた。
****
今日も今日とて、昼休みになると積み上がっている。
「あ、相田くん! これ! 受け取ってください!」
『早起きしてつくったお弁当食べてぇぇぇぇ!!』
「ああ、ありがとう」
『申し訳ないなあ、これ全部食べられるかな』
昼休みになると、相田のファンの女子が次から次へとやってきて、相田に弁当をプレゼントしていく。中には『相田くんに私の××××を!』というヤバメな女子がいて、それは俺がわざと引っ繰り返して食べれなくしているものの、それ以外は割と女子が必死につくったものだから、それを相田は必死に食べている。
あまりに必死に食べているもんだから、ときどきたまりかねて「俺も一緒に食べるか?」と尋ねると、それに相田は首を振る。
「それは悪いだろ。俺に時間をつくってくれたのに」
『人の時間を奪ったんだから、ちゃんと食べるのが義務だよな』
裏表なくイケメンムーブをするものだから、そりゃ女子が惚れるよなあと納得する。
周りの男子のひがみはすごいが。
『相田、B組のきょぬー女子から弁当を! もげろ!』
『腹壊せ!』
『タダ飯いいな……ソシャゲで小遣い使い込んでもう今月水で凌ぐしかないわ』
だからちょいちょい混ざるソシャゲ好きはなんなんだよ。それはさておいて。
「なあ、相田。お前あちこちに助っ人言ってるなら、他クラスにも知り合いいるだろ?」
「ああいるぞー」
「あのさ、C組の白石さんって知ってる?」
「うん、知ってるぞ。無茶苦茶可愛い子だな」
ああ、やっぱり知ってたか。
相田は相変わらず裏表ない言葉で語り出す。
「すごく可愛い子だけれど、何故かひとりでいることが多いなあ……誤解を招きやすいというか」
「なんでまた?」
「感情表現が下手なんじゃないかな。無愛想がられることが多いみたいだけど……前にバレー部に助っ人行った奴が白石さんにフラれたとか言ってた」
「……フるのか、あの子が」
白石さんは言っていることに裏表がないし、そこまで遺恨が残るような物言いをするとは思えないんだけど。相田は「あくまでそいつの証言だけどな」と言い置いてから続けた。
「告白したら『なんで?』と冷たいこと言われて話を打ち切られたって」
「ええ……」
あの子がそこまで冷たいこと言うか?
いや、俺は心の声が聞こえるから、素直な子に聞こえるが。あの子は大概しゃべり方が淡泊なんだ。全部聞かなかったら「なんで?」と聞かれても返答に困るのか。
相田は女子のつくったお弁当箱そのいちをカラにしてから、他の弁当箱に手を伸ばし、唐揚げを放り込んだ。これ、母さんのつくった弁当に入ってた冷凍唐揚げだな、あれ美味いよなとぼんやりと思っていたら「そのせいかな」と相田が言う。
「なんか白石さん、おかしなあだ名が付いてて」
「マジか。なんて」
「マイナスイオン様」
「……なんで?」
「なんでもばっさばっさとフり続けるせいで、すっかりと男子に脅えられてる。そういえば、お前と同じ部じゃなかったのか?」
「あー……」
基本的にオタクは三次元女子と素直におしゃべりできないから、白石さんに告白どころかまともに声かけすらできないんだ。俺も普段からソシャゲに勤しんでいたから、彼女が同じ部活にいることすら知らなかったし。
うーん……あんな裏表ない子がひとりでいるのは、ちょっと寂しいかもしれない。
「なんとかならないかな、白石さん」
「おっ、お前女子の話をするの初めてじゃないのか?」
「えっ?」
そりゃ女子は本音と建前が一致しなさ過ぎて怖いとは、今も昔も変わらず思っているけれど。でも白石さんは本当に珍しく本音と建前が一致していて、こちらが吐き気を催すようなギャップがないから、見ていても安心するし、しゃべっていても可愛いと思う。
でも、なんで相田がそれにニヤニヤしてくるのかね。相田はこちらを、新しい弁当に焼きおにぎりを頬張りながらニッコリと笑った。
「もし早川が付き合い出したら、コンビニで赤飯おにぎりおごってやるからな!」
「そんな恥ずかしい祝われ方嫌じゃ!? というより、生涯恋愛しない宣言しているお前に祝われると、むっちゃ怖いんですけど!?」
「いや、俺もいつかは誰かを本気で守りたいと思うかもしれないから、生涯恋愛しない宣言はしてないぞ。今のまだ誰かひとりを守りきれない俺が、その子の全責任を取れないのに軽はずみなことなんて言える訳ないだろ」
「そういう結婚を前提にお付き合いはじめましょうとか素で言えるお前が怖いわっ!?」
俺がギャーギャーと言っている中でも、周りは相田の言葉をざわっとしながら見守っていた。
『相田くんが本気で守りたい女の子ってなに!?』
『硬派。本当に世の中の男に相田くんの爪の垢を飲まして回りたい』
『わーい、私のお弁当食べてくれたあ』
しかし、相田のことはさておいて、白石さんのことどうしよう。
どうも周りに誤解されてるっぽいし。そんなのイチオタクの俺がどうこうできるもんでもないような気がする……と、そのときスマホのアプリがピコンと鳴った。
今ちょうどスマホ内イベントで、レイドバトルが開催中なんだ。
「あ、ごめん。ちょっとソシャゲしていい?」
「お前相変わらず好きだな、それ。面白い?」
「今ちょうど、フレンド枠にひとり追加したところ」
「ふーん」
白石さんのアカウントをちらっと覗くと、本人がソシャゲのキャラを引き当てたみたいだった。低レアではないけれど、高レアでもない彼女の描いていたキャラをご満悦にパートナーとして頑張ってソシャゲをしているみたいだ。
俺はそのキャラに似たタイプのキャラを貸し出せるように設定しておいた。一緒にゲームできたら楽しいと、ほんの少しだけ思いながら。