パチパチと薪が爆ぜる音がした。

 夜。
 街道から少し外れたところにある広場。

 エリゼ達はそこで焚き火を囲み、作ったばかりのシチューを食べていた。

「ん……美味しい。エリゼは料理がとても上手なのね」
「えへへ。ありがとうございます、アリーシャちゃん」
「エリゼは、将来、とても家庭的なお嫁さんになりそうですわね」
「は、はい。わたしも、シャルロッテ様の意見に同意です」
「むぅ……エリゼが嫁に……喜ぶべきなのか悲しむべきなのか、判断に迷うわね」

 エリゼだけではない。
 アリーシャ、シャルロッテ、フィア、アラムの姿もあった。
 それと、ニーア。

 近くにテントが設置されていて、動物や魔物避けの結界も展開されていた。
 野営の準備は完璧だ。

 そんな一同の目的地は……

「お姉ちゃん、レイドアロマまで、あとどれくらいでしょうか?」
「順調に進んでいるから、そうね……明日の夜か、明後日の朝には着くと思うわ」
「あまり無理をなさらない方がよろしいんじゃないかしら? 夜の移動は危険ですし、明後日の昼前に着くように意識して行動しませんこと?」
「そうね。シャルロッテさんの言う通りかも」
「水や食料の備蓄は十分なので……あ、あと3日かかったとしても、大丈夫です」
「ありがとう、フィアさん。それと、大事なものの管理を任せてごめんなさいね」
「い、いえいえ! みなさんのお役に立てるなら、これくらい!」

 フィアは照れた様子で、顔を赤くした。
 そんなフィアを、アラムは優しい目で見る。

 この子、小動物みたいで可愛い。
 なでなでさせてくれないかしら?
 ぎゅってしたい。

 ……そんなことを考えていた。

「それにしても、お兄ちゃんは、いったいなにをしようとしているんでしょうか?」

 そんな疑問を、エリゼがぽつりとこぼして……
 皆も小首を傾げた。

 一同の目的地はレイドアロマだ。
 友達のために……という理由で学院を休み、外に出たレンを追いかけている。

 レンはあれこれと理由を並べて皆を納得させようとしていたが、エリゼ達は納得していなかった。
 逆に不信感を招いていた。

 なにか隠している。
 妹の直感は兄の嘘を見抜いていた。

 故に、後を追いかけることにした。
 そして詳しい調査をしてみると、事前の説明とはまったく関係のない、レイドアロマにレンが向かったことが判明した。

 ここで疑念は確信に変わる。
 レンは、自分達に黙って隠して、なにかしようとしているのだ。

「見過ごせませんね」
「見過ごせないわ」
「わたくしに黙ってなにかしようなんて、許せませんわ」
「えっと……水臭いです」
「姉として、弟を監督する義務があるわ」

 ……なんて。
 各々、色々と理由をつけているものの、結局のところ、『レンのことが気になる』の一言に尽きるのだった。

 男なのに魔法を使うことができて。
 さらに、幼い頃から強力な魔法を扱うことができて。

 学問に関する知識は普通。
 しかし、頭の回転は早く、洞察力に優れている。

 魔法に対する好奇心は人一倍。
 ただ、興味がそれだけに絞られているわけではなくて、きちんと周りも見ている。
 困っている人がいたら手を差し伸べる優しさを持っている。

 そんなレンが、周囲に秘密でなにかやろうとしている。
 そのことはエリゼを始め、ここにいる者は薄々と感じていた。
 そして、自分を頼ってくれないことに不満を持っていた。

 頼ってくれないのなら、強引に頼りにしてもらう。
 そのために後を追いかけることにした。

 ……わりと大胆な女性達であった。

「それにしても……お兄ちゃん、いったい、何をしようとしているんでしょうか?」
「ピーッ!」
「ニーアちゃんは、なにか知っていますか?」

 エリゼは、自分の肩に乗る鳥に問いかける。
 亡き師から託された家族だ。
 気がついたら一緒にいた。
 ニーアもレンのことが放っておけないのだろう、と思い、エリゼは一緒に連れて行くことにした。

「ピー……」
「ニーアちゃん?」

 気の所為だろうか?
 いつも温厚な愛鳥だけど、今は気が立っているような気がした。

 なぜ?

 不思議に思いつつ、しかし、エリゼは深く考えることをせず……
 ふわぁ、と一つあくびをした。

 それを見たアラムが微笑み、ぱんぱんと手を叩く。

「みんな、そろそろ寝ましょうか」
「えっと、火の番はどうしましょう……?」
「魔法で点けた火だから、わりと長く続くはずよ。結界も展開しているから、動物や魔物の心配もないと思う。でも、一応、油断はしないように。なにが起きてもすぐに動けるように、いざという時の準備は怠らないでね」
「「「はい」」」
「じゃあ、就寝! みんな、おやすみなさい」