事件を起こした後、紆余曲折を経て、マーテリアは辺境の屋敷で軟禁されることになった。
俺は事件の関係者で、しかも家族だ。
面会が許されていることは事前に確認済み。
なにか情報を得られるかもしれないと、まずはマーテリア本人から改めて話を聞くことにしたのだけど……
「……久しぶりだねえ、レン。このようなことを言える立場でないことはわかっているのだけど、会えて嬉しいよ」
「そう、ですね……俺も、ちょっとは嬉しいです」
屋敷を訪問して、マーテリアとの面会が叶う。
久しぶりに姿を見た祖母は、とても老けていた。
10年くらいの月日が過ぎたかのようだ。
ただ……
代わりといってはなんだけど、とても穏やかな表情になっていた。
優しく、温和で……
気のいいおばあちゃん、という感じだ。
俺の前では絶対に見せなかった顔。
下手をしたら、エリゼやアラム姉さんの前でも見せていないだろう。
そんな表情を見られるのは、なんだかとても複雑だった。
「……レン」
「はい」
「すまなかったねえ……」
いきなり頭を下げられてしまう。
しかも、机に額がつくほどに低く低く。
「お、お祖母様!?」
「今更、謝っても許してもらえるなんて思っていない……それでも、謝罪だけはさせてほしい。受け入れてくれなくてもいい……すまなかった」
ひたすらに頭を下げるマーテリアからは、まっすぐな想いが伝わってきた。
本当に悪いことをしたと思っているのだろう。
以前のマーテリアからは考えられない姿だけど……
でも俺は、『今』を信じてみようと思う。
「頭を上げてください」
「……許してくれるのかい?」
「いいえ」
「そう、だよね……」
「許すもなにも、とっくに気にしていません」
「っ……!? レン、あんたっていう子は……うっ、くぅ」
マーテリアは……いや。
お祖母様は、ぽろぽろと涙をこぼした。
本当に変わったんだな。
いや、元に戻ったというべきか。
たぶん、これが本来のお祖母様の姿なのだろう。
それが『なにか』によって歪められていた。
……おそらくは、魔王。
「お祖母様。今日は謝罪を求めに来たわけじゃなくて、ちょっと聞きたいことがあるんです」
「話……かい?」
「ええ。なんていうか、えっと……」
――――――――――
祖母との面会が終わり、屋敷の外に出た。
魔王のことはぼかして、祖母になにが起きたか、過去から現在に至るまでの道筋を聞いてきたのだけど……
誰かが、度々、祖母に接触していたらしい。
その『誰か』は祖母の記憶に残っていない。
思い出そうとしても、そこの記憶だけすっぽりと抜け落ちているみたいだ。
今までの状況や経緯を考えると魔王の可能性が高い。
「女性……か」
唯一、祖母はその人が女性ということを覚えていた。
「そこそこの手がかりだけど、でも、これだけじゃ、まだなんともできないか」
「やっ、面会は終わったかい?」
少し歩いたところでメルと合流した。
「情報は?」
「あまり大したことは」
祖母との話で得た情報をメルと共有した。
「ふむ。ちょくちょくやってきた謎の女性か」
「怪しいけれど、でも、まるで情報が残っていない。わかるのは、女性、っていうことだけだ」
「魔王かな?」
「なんとも」
関係があるのは間違いないだろう。
ただ、本人か協力者なのか、そこは調べてみないとわからない。
「メルの方は、なにか情報は?」
俺が祖母と面会している間、メルはメルで独自に情報を集めていたはずだ。
メルは不敵に笑う。
「ふっふっふ。聞きたいかな?」
「いや、別に」
「え!?」
「さて、次の場所へ行くか」
「待ってくれよぉ、ボクががんばって集めた情報なんだよぉ。それをスルーなんて、あまりにもあまりじゃないかぁ」
なら、もったいぶらないでくれ。
俺の腰にしがみついてくるメルを見て、ため息をこぼしてしまうのだった。
「不審者?」
「そうそう。この街……レイドアロマで、今、不審者が現れているみたいだよ」
メル曰く……
レイドアロマは、かつては鉱山都市として栄えていた。
しかし鉱石が枯渇したことで都市は衰退。
今は辺境の田舎として、少ない人々がのんびりと暮らしている。
そんな田舎に、ある日、見知らぬ女性がやってきた。
人の少ない田舎だ。
外から人がやってくればすぐにわかる。
しかし、その女性は移住者ではない。
商売にやってきたわけでもなくて、街に数日滞在して、外へ。
しばらくしたらまた街にやってきて……ということを繰り返しているらしい。
「女性はいったいどんな人で、なんのためにこんな田舎までやってきているのか? って、ちょっとした謎になっているみたいだよ」
「魔王とか関係なく、思い切り不審者じゃないか、それ。通報されたりしないのか?」
「それがさー、わりと気のいい美人さんみたいでね? 何度も来るうちに街の人とも顔見知りになったらしく、みんな、大して気にしていないみたい」
「それ、不審者ってわけじゃないだろう」
言い方が悪い。
「ボクの方で気になった話はこれくらいかな」
「……ちなみに、その女性が現れたのはいつ頃なんだ?」
「えっと……3年くらい前だったかな?」
「15年以上前、っていうことは?」
「それはないね。長く住んでいるおじいさんおばあさんにも話を聞いたけど、そんな昔にはいなかった、って断言されたよ」
なら、祖母に干渉はしていないか。
街の人と仲良くなるくらいだから、魔王の関係者というわけでもなさそうだし……
「ハズレかな」
「だねえ」
そんなに簡単に魔王の情報を掴むことはできないと思っていたけれど、それでも落胆は大きい。
祖母の記憶が失われていたことも残念だ。
いや。
もしかしたら、それすらも魔王が……
「あれ?」
ふと、メルが怪訝そうに小首を傾げた。
「どうしたんだ?」
「いやー……今、ローラ先生を見かけたような気がして」
「ローラ先生を?」
「そこの角を曲がっていたように見えたんだけど、チラッと一瞬見えただけだから、なんとも言えないんだよね」
「……追いかけてみるか」
「らじゃー!」
メルが言う道を進んで、角を曲がり……
「えっ」
「ひゃ!?」
真正面から女性とぶつかってしまう。
俺は耐えることができたものの、相手は尻もちをついてしまった。
「す、すみません。大丈夫ですか?」
「いたたた……ええ、大丈夫よ。って……ストライン君?」
「え?」
背は低い方で、俺と同じくらい。
やや童顔のため、下手をしたら同い年にみられるかもしれない。
ただ、美人であることは間違いないため、街を歩けば、ついつい視線をやってしまう男性は多いだろう。
「って……ローラ先生?」
――――――――――
「まさか、こんなところで教え子と会うなんて」
「それは俺達の台詞ですよ」
ちょっとしたアクシデントはあったものの、ひとまずローラ先生と合流することができた。
せっかくなので話を、と思ったのだけど……
「ところで、ストライン君とティアーズさんは、どうしてこんなところに? 今日から1週間、あなた達が休むという連絡は受けているのだけど……もしかしてサボり? 若さ故のバカンスとロマンス?」
「なんですか、それ」
「いいね。それ、楽しそう」
「メルは、ローラ先生の話に乗らないでくれ……」
意外とローラ先生は茶目っ気が多いみたいだ。
「えっと……この近くで祖母がいるので、会いに来たんですよ。色々とあって、まとまった時間がないとなかなか会えないもので」
「ボクも同じようなものかな。ちょっとした縁があるんだ」
「そう……そういえば、ストライン君のお祖母さんは……」
祖母が起こした事件を知っているらしく、ローラ先生の顔が曇る。
俺は別に気にしていないと告げるように、努めて明るい声で言う。
「そういうローラ先生こそ、こんなところでどうしたんですか?」
「それは……」
ローラ先生は難しい顔に。
次いで、周囲を見回してカフェの様子を確認した。
「……まあ、二人になら話してもいいかしら? でも、他言無用よ」
「はい」
「うん」
なにやら重要な話みたいだ。
今回はメルも真面目に頷いていた。
「実は、この辺りで学院の生徒が行方不明になっているみたいなの」
この街は辺境ではあるものの、辺境だからこそできることがある。
具体的に言うと、魔法などの実験。
あるいは、魔法の試射。
土地が余っているから、学院が買い取り、そういった実験場などを作り、整備しているらしい。
学生が利用することも可能で、ちょくちょく足を運んでいる人がいるとか。
「ただ、最近になって問題が起きたのよ」
「それが失踪事件ですか?」
ある日、一人の生徒が行方不明になった。
最後に所在が確認されたのは、この街、レイドアロマだ。
数日後、別の生徒が、やはりこのレイドアロマで行方不明になった。
その生徒は、一人目との関係性はまったくなし。
強いて挙げるなら、同じ学院に通っていたということだけ。
……それから、日が経つごとに行方不明者が出るように。
さすがに放っておくわけにもいかず、ローラ先生が調査することになったらしい。
「それ、騎士団に通報しないんですか?」
「一応、しているわ。でも、手がかりがなくて捜査が進展していないの」
「ほー。それで、先生も駆り出されたってわけなんだね」
メルの問いかけに、ローラ先生は静かに頷いた。
「念のため、特別な事情がない限り、生徒達はレイドアロマに来ることは禁止。それは問題が解決するまでは、と思っていたのだけど……」
俺達がやってきてしまった、というわけか。
心なしかローラ先生の視線が痛い。
「あはは……」
とりあえず、笑ってごまかしておいた。
「まあ、仕方ないわ。来てしまったものはどうしようもないもの。ただ、用事が終わったのなら、すぐに帰ってちょうだい」
「えっと……すみません。できれば、もう少し滞在したいんですけど」
あれ? という感じで、メルが怪訝そうな視線をこちらに向けてきた。
それに気づいていないフリをして、話を続ける。
「祖母と話をする機会はぜんぜんなくて、一度の面会で話が終わらず……あと、家族から頼まれている用事などもあって……そのために、1週間の休みをもらっているんです」
「んー……神隠しが起きているから、できれば、ストライン君とティアーズさんには、今すぐに王都に戻ってほしいのだけど」
「でも、まだ事件性が確定したわけじゃないんですよね?」
「それはそうだけど……」
「きちんとした場所に泊まるので、たぶん、安全です。不要な外出もしません。なるべく早く帰れるようにするので……」
「……はぁ、わかりました。二人の滞在を認めます」
「ありがとうございます」
よし。
どうにかこうにか、ローラ先生の許可を得ることができた。
ここで、いいからとにかく帰れ、と言われていたら面倒なことになっていた。
「ただし、夜に出歩くなど、危ないと思われることは絶対に避けてくださいね? 二人が新しい神隠しの犠牲者になるなんて、私はごめんですからね」
「「はい」」
「あと、なにかあればすぐ私に連絡をするように。私は、この先にある宿に泊まっていますから。留守だとしても、女将さんに伝言を残してください。それと、なにかしら事件性を感じた時は、自分達の身の安全を第一に考えて行動してくださいね。それから……」
な、長い……
子供が初めてのおつかいに行く時のような感じで、その後、ローラ先生の話は10分くらい続いた。
全て、この街で過ごす上での注意事項。
それと、安全を確保するための、いざという時の心構えなど。
とはいえ、素直に話を聞いた。
俺達を心配してくれてのことだ。
適当に扱うつもりはない。
……まあ、そのまま受け入れる、ということもないのだけど。
「じゃあ、十分に注意してくださいね」
話が終わり、ローラ先生は一足先にカフェを後にした。
二人になったところで、メルが疑問を投げかけてくる。
「ねえねえ、どうしてここに滞在することにしたんだい? マーテリアの話はすでに聞いて、大した収穫もないことはわかった。これ以上、レイドアロマに滞在する必要はない。本来の次の目的である、シャルロッテの父親から話を聞くべきじゃないかな?」
「そうかもしれないけど……」
ただ、どうにも気になるんだよな。
「神隠し?」
「ただの事故や事件じゃない気がして」
「それは勘?」
「元賢者の勘」
「んー……そう言われると、俄然、説得力が増すね」
勘っていうものは意外とバカにできないものだ。
その者が積み上げてきた経験が教えてくれるもの。
わりと答えに辿り着くことが多い。
「メルは反対か?」
「んにゃ。実は、ボクも気になっていたんだよねー。なんかありそうだな、っていう匂い? がするんだよ」
「動物か」
「そういうのを嗅ぎ分けるのは得意だよ、にゃん♪」
妙に猫のものまねが上手いな。
それはともかく……
「じゃあ、レイドアロマの滞在を延長する、っていうことでいいな?」
「異議なーし」
「で、神隠しについて調べる」
「腕が鳴るね」
「まだ、荒事になる、って決まったわけじゃないんだけどな……」
「でも、なりそうじゃない?」
「そういうの、フラグっていうんだぞ」
俺は平和主義だ。
何事もなく、のんびり過ごしたい。
魔法の研究などに没頭できれば最高だ。
でも、自然とトラブルや事件が舞い込んできて……
なかなかのんびり過ごすことができない。
「……今回はどうなるか」
神隠し。
なんてことのない事件かもしれないけど……
でも、妙なきな臭さを感じた。
もしかしたら魔王が関与しているかもしれない。
パチパチと薪が爆ぜる音がした。
夜。
街道から少し外れたところにある広場。
エリゼ達はそこで焚き火を囲み、作ったばかりのシチューを食べていた。
「ん……美味しい。エリゼは料理がとても上手なのね」
「えへへ。ありがとうございます、アリーシャちゃん」
「エリゼは、将来、とても家庭的なお嫁さんになりそうですわね」
「は、はい。わたしも、シャルロッテ様の意見に同意です」
「むぅ……エリゼが嫁に……喜ぶべきなのか悲しむべきなのか、判断に迷うわね」
エリゼだけではない。
アリーシャ、シャルロッテ、フィア、アラムの姿もあった。
それと、ニーア。
近くにテントが設置されていて、動物や魔物避けの結界も展開されていた。
野営の準備は完璧だ。
そんな一同の目的地は……
「お姉ちゃん、レイドアロマまで、あとどれくらいでしょうか?」
「順調に進んでいるから、そうね……明日の夜か、明後日の朝には着くと思うわ」
「あまり無理をなさらない方がよろしいんじゃないかしら? 夜の移動は危険ですし、明後日の昼前に着くように意識して行動しませんこと?」
「そうね。シャルロッテさんの言う通りかも」
「水や食料の備蓄は十分なので……あ、あと3日かかったとしても、大丈夫です」
「ありがとう、フィアさん。それと、大事なものの管理を任せてごめんなさいね」
「い、いえいえ! みなさんのお役に立てるなら、これくらい!」
フィアは照れた様子で、顔を赤くした。
そんなフィアを、アラムは優しい目で見る。
この子、小動物みたいで可愛い。
なでなでさせてくれないかしら?
ぎゅってしたい。
……そんなことを考えていた。
「それにしても、お兄ちゃんは、いったいなにをしようとしているんでしょうか?」
そんな疑問を、エリゼがぽつりとこぼして……
皆も小首を傾げた。
一同の目的地はレイドアロマだ。
友達のために……という理由で学院を休み、外に出たレンを追いかけている。
レンはあれこれと理由を並べて皆を納得させようとしていたが、エリゼ達は納得していなかった。
逆に不信感を招いていた。
なにか隠している。
妹の直感は兄の嘘を見抜いていた。
故に、後を追いかけることにした。
そして詳しい調査をしてみると、事前の説明とはまったく関係のない、レイドアロマにレンが向かったことが判明した。
ここで疑念は確信に変わる。
レンは、自分達に黙って隠して、なにかしようとしているのだ。
「見過ごせませんね」
「見過ごせないわ」
「わたくしに黙ってなにかしようなんて、許せませんわ」
「えっと……水臭いです」
「姉として、弟を監督する義務があるわ」
……なんて。
各々、色々と理由をつけているものの、結局のところ、『レンのことが気になる』の一言に尽きるのだった。
男なのに魔法を使うことができて。
さらに、幼い頃から強力な魔法を扱うことができて。
学問に関する知識は普通。
しかし、頭の回転は早く、洞察力に優れている。
魔法に対する好奇心は人一倍。
ただ、興味がそれだけに絞られているわけではなくて、きちんと周りも見ている。
困っている人がいたら手を差し伸べる優しさを持っている。
そんなレンが、周囲に秘密でなにかやろうとしている。
そのことはエリゼを始め、ここにいる者は薄々と感じていた。
そして、自分を頼ってくれないことに不満を持っていた。
頼ってくれないのなら、強引に頼りにしてもらう。
そのために後を追いかけることにした。
……わりと大胆な女性達であった。
「それにしても……お兄ちゃん、いったい、何をしようとしているんでしょうか?」
「ピーッ!」
「ニーアちゃんは、なにか知っていますか?」
エリゼは、自分の肩に乗る鳥に問いかける。
亡き師から託された家族だ。
気がついたら一緒にいた。
ニーアもレンのことが放っておけないのだろう、と思い、エリゼは一緒に連れて行くことにした。
「ピー……」
「ニーアちゃん?」
気の所為だろうか?
いつも温厚な愛鳥だけど、今は気が立っているような気がした。
なぜ?
不思議に思いつつ、しかし、エリゼは深く考えることをせず……
ふわぁ、と一つあくびをした。
それを見たアラムが微笑み、ぱんぱんと手を叩く。
「みんな、そろそろ寝ましょうか」
「えっと、火の番はどうしましょう……?」
「魔法で点けた火だから、わりと長く続くはずよ。結界も展開しているから、動物や魔物の心配もないと思う。でも、一応、油断はしないように。なにが起きてもすぐに動けるように、いざという時の準備は怠らないでね」
「「「はい」」」
「じゃあ、就寝! みんな、おやすみなさい」
「おはよ♪」
「……なにしているんだ?」
翌朝。
目が覚めると、メルの顔が目の前にあった。
よく見ると、俺の上にメルが乗っていて、顔をこれ以上ないほど近づけている。
「朝這い?」
「新しい言葉を作るな」
「ひゃん」
メルを粗雑にどかして起き上がる。
「むー。朝から美少女が起こしに来てくれたんだから、もっと喜ぶべきじゃないかな?」
「自分で言うな。というか、鍵はどうした? 宿の部屋は別々だろう」
「あんな鍵、ボクにとってはないも同然だね」
「誇らしげに犯罪を語るな」
まったく。
明日から魔法で結界を作っておいた方がいいかもしれない。
「それで、朝から部屋にやってきた理由は?」
「だから、朝這い♪」
「冗談はいいから」
「まったく、つまらないなあ」
ようやくメルは真面目に話をしてくれるみたいだ。
部屋の椅子に腰かけて、思考を巡らせるように顎に手をやりつつ、そっと口を開く。
「また神隠しが起きたみたい」
「……確かなのか?」
「まだ断定はできないけどね。今日、街を出る予定だった生徒がいなくなっているみたいだよ」
「生徒は遠ざけられていたんじゃないのか?」
「けっこう前にここを訪れていたみたい。しばらく滞在予定だったけど、神隠しが起きているから、強制退去。今日、街を去る予定だったんだけど……」
「その前に神隠しに遭った……か」
「まだ断定はできないけどね」
メルの話によると、生徒の姿が消えたのは、今朝……つまり、ついさっき判明したらしい。
今は捜索が行われているようだ。
ただの散歩とか。
あるいは、誘拐事件とか。
そういう可能性もあるため、断定はできないとのこと。
とはいえ、物事を楽観的に考えても仕方ない。
俺たちは、これを神隠しと考えて行動した方がいいだろう。
「どうする?」
「その生徒について調べてみよう。俺は、生徒を捜してみるから、メルはその生徒の情報を頼む」
「らじゃー」
俺はベッドから降りて、服を……
「……」
「なにをしているんだ?」
「着替えを見ようかな、と」
「出ていけ」
メルを部屋から蹴り飛ばした。
――――――――――
「ふむ」
昼前。
独自に生徒の行方を調査していたのだけど、成果はない。
聞き込みの成果はゼロ。
誰も生徒の姿を見ていないという。
街を守る衛兵でさえ見ていないのだから、一人、街を出ていったという可能性はないだろう。
誘拐されて、樽などに入れられて運び出された可能性も探ってみた。
しかし、それらしい物を積んだ人の行き来はなかったらしい。
最後に魔法を使い、生徒を探知してみることにした。
生徒の持ち物を借りて、情報を記録。
街全体を探知してみたのだけど……
「これも反応なし……か」
100パーセント、生徒を見つけられると断言できるほど、俺はうぬぼれていない。
魔法の構成、構築が甘く、見落としがあるかもしれない。
とはいえ、ここまで手がかりが得られないのは誤算だ。
多少の手がかりは得られると思っていたんだけどな……
「……あるいは」
最悪の可能性が頭をよぎる。
神隠しに遭った生徒がすでに死んでいたとしたら?
その場合は、捜索は極めて困難になる。
「どうするかな……」
メルと合流するか?
でも、なにかしらの情報は手に入れておきたい。
「あら、ストライン君」
「ローラ先生?」
迷っていると、再びローラ先生と出会うのだった。
「こんなところでどうしたんですか? お祖母さんとは会えましたか?」
「えっと……」
神隠しの調査をしていました。
なんて、素直に言えるわけがない。
そんなことをしたら最後、強制送還されてしまうだろう。
「祖母との面会はまだです。ただ、最近少し体調がよくないみたいなので、なにかお見舞いの品を探していたところです」
「そう……大変ね」
「いえ」
「なにか私にできることがあれば、遠慮なく言うように。先生としてだけではなくて、ストライン君の、そうね……先輩として力になるわ」
「先輩?」
「私も、エレニウム魔法学院に通っていたの」
それは初耳だ。
「ほんの少し前のことなんだけどね。ほんの少し前よ?」
なぜ、ほんの少し、を強調するのだろう?
……年齢を気にしているのだろうか?
「どんな学生生活だったんですか?」
「そうね。学ぶだけじゃなくて、たくさんの友達ができたわ。ただみんな、ちょっと勉強が苦手で……ふふ。赤点を回避するために、よく、私が主導になって勉強会を開いていたの」
「へぇ、楽しそうですね」
「ありがとう。それで、その時の経験があって、先生もいいかな、って思うようになったの」
それで今に至る、というわけか。
意外なところでローラ先生のことを知ることができた。
「ところで……」
「なに?」
「えっと……いえ。やっぱり、なんでもありません」
神隠しのことを聞こうと思ったけれど、やめておいた。
ローラ先生にそんなことを質問したら、事件に首を突っ込もうとしているのでは? と怪しまれてしまうかもしれない。
余計なことはしない方がいい。
「なに? 遠慮しなくていいのよ」
「そうですね、えっと……ローラ先生は、この後、時間はありますか?」
「そうね……少しなら問題ないわ」
「なら、ちょっと買い物に付き合ってくれませんか? 祖母のお見舞いの品を買いたいんですけど、女性の意見も聞きたくて」
「なるほど。そういうことなら協力するわ」
ちょうどいい具合に話を逸らすことができたと思う。
「それに、今、レイドアロマは色々と物騒だから……私がストライン君のボディガードになってあげる」
「先生が……ですか?」
「なに、その驚いた顔は? ストライン君は天才かもしれないけど、先生も、けっこう強いのよ?」
ならぜひ手合わせを!
……という言葉が出そうになり、慌てて飲み込んだ。
いけない、いけない。
今は神隠しの調査が最優先だ。
趣味に興じている場合じゃない。
「ありがとうございます。頼りにさせていただきますね」
「ええ、頼りにしてちょうだい」
――――――――――
祖母のお見舞いのための買い物という名目で、ローラ先生とレイドアロマを一緒に見て回る。
意外というか、街は活気に満ちていた。
衰退しつつある街ではあるものの、ここに暮らす人々の力強さが失われているわけではなさそうだ。
「お祖母さんは、どんなものが好きなのかしら?」
「うーん……よくわからないんですよね。だから、わかりやすいお菓子なんかにしようかと」
「なるほど。なら、そこにお菓子を扱うお店があるから、行きましょうか」
「はい」
ローラ先生と一緒に店へ向かい……
そして、首を傾げる。
店は閉まり、『臨時休業』という張り紙がされていた。
「今日、お休みみたいですね」
「おかしいわね……普通に営業日だと思っていたんだけど。うーん?」
ローラ先生は小首を傾げているが、俺は、この店が休業の理由を知っていた。
神隠しに遭った生徒が最後に目撃されたのが、この店らしい。
故に、今日は事件の調査に協力するなどして休業になっているのだろう。
それを知らないということは、ローラ先生は、神隠しの調査をしていないのだろうか?
それとも、まだ情報を受け取っていないだけなのか?
妙なところで妙な疑問を覚えてしまった。
なんて不思議に思っていると、
「すみません」
見知らぬ男性がローラ先生に声をかけてきた。
ナンパ? と思うものの、違う。
ローラ先生の知り合いらしく、気さくな笑顔を向けている。
「あら。どうかしたんですか?」
「えっと……例の件でお話したいことが」
「例の……わかりました。すぐに行きます」
「はい、お願いします」
短いやり取りを交わして、男性は立ち去ってしまう。
例の件というのは、たぶん、神隠しのことだろう。
その一言だけでローラ先生の表情が厳しくなったからな。
「えっと……すみません、ストライン君。先生は、ちょっと急用ができてしまいまして……」
「俺のことは気にしないでください。お見舞いの品くらい、自分でなんとかしますし……それに、こんなにたくさんの人がいるから、危険なんてことはありませんよ」
「それは……そうですね。ただ、裏通りなどは人が少ないから、そういうところに行ってはいけませんよ? あと、なにかあれば大きな声を出すように。いざという時は、魔法の使用も許可します。それと……」
ローラ先生の注意事項の説明は10分くらい続いた。
昨日もそうだけど、心配性なのかな?
「では、先生はこれで行きますね」
「はい、また」
ローラ先生と別れて……
「……よし」
一人になったところで、俺はニヤリと笑うのだった。
俺は人気のない物陰に移動して……
「透明迷彩<インビジブルコート>」
「存在消失<ゼロフィールド>」
「感覚強化<フィールプラス>」
透明になる魔法、気配を遮断する魔法。
それと、聴覚や視覚を強化する魔法を続けて使う。
そして、ローラ先生の尾行を開始した。
ローラ先生とその協力者なら神隠しについて詳しいだろう。
こっそりと盗み聞きして、情報をいただいてしまおう。
「ここは……」
ほどなくして大きな宿に到着した。
たぶん、ローラ先生が泊まっている宿だろう。
ローラ先生は部屋に移動して……
俺は、窓の外から中の様子をうかがう。
さきほどの男性と、他に、見知らぬ男女が複数人いた。
そこにローラ先生が加わり、話が始まる。
「……例の事件ですが、今度の被害者は中等部の学生みたいです」
魔法を調整しつつ、耳を澄ませると、そんな声が聞こえてきた。
よし。
ちゃんと魔法は機能しているみたいだ。
盗み聞きなんて心苦しいのだけど……
でも、なにかが気になる。
「退避を促していたのだけど……」
「すみません。現状、神隠しと生徒の因果関係が断言できず、強制力はなくて……」
「そうですね……もどかしいですね」
「ただ、これ以上に被害者は絶対に出してはなりません。抗議を受けたとしても、学生を強制的に退避。そして、レイドアロマへの移動を禁止しましょう」
「はい、わかりました。ただ……先生は生徒と一緒にいたようですが?」
「ストライン君とティアーズさんね。あの二人は……そうですね、たぶん、大丈夫。いざとなれば、私がなんとかします」
「現状についての確認をします。事件なのか事故なのか、そこはまだ不明。ただ今のところ、事件性の方が高い。断定はできないものの、神隠しを行う犯人がいる……その認識で問題ありませんか?」
「はい、ありません。ただ、先生がおっしゃったように、その方向で調査、捜索を進めていますが、なかなか成果は……」
「焦らず、しかし、確実に進みましょう。なにかしらの悪意が絡んでいるのなら、それを絶対に突き止めないといけません。事件の解決を急ぐのはもちろんですが、しかし、それ以上に神隠しに遭った生徒達の安全を最優先に」
……そんな会話が聞こえてきた。
ローラ先生はとても真面目な口調で。
でも、わずかな焦りと緊張も含まれていて。
心の底から生徒を案じていることが伺えた。
本当、優しい先生だな。
今まで、あまり彼女のことを知る機会がなかったけれど……
そのことをちょっと後悔する。
もっと色々なことを知り。
そして、教示を願い。
そうしていれば、魔力だけではなくて、心の強さを得ていたかもしれない。
「……この辺にしておくか」
これ以上は大した情報を得られそうにない。
それと、ちょっとした罪悪感もあって……
俺は、そっとその場を後にした。
――――――――――
「さてと……これから、どうしようかな?」
神隠しについてではなくて、今後の方針そのものを考える。
神隠しは気になる。
もしかしたら魔王が関わっているかもしれない。
ただ、表向きはまったく関係のない俺が首を突っ込んでいいものか?
ローラ先生に任せておけば、きちんと解決してくれるような気がした。
個人としても、これ以上、ローラ先生に負担をかけたくない。
心配をさせたくない。
無理をせず、撤退するか……?
いや、しかし。
魔王が関係しているとしたら、ヤツの手がかりは欲しい。
そうなると、無理をしてでも留まるべきで……
「いた!」
街を歩きつつ考えていると、ふと、メルの声が聞こえてきた。
振り返ると、やけに慌てた様子のメルの姿が。
もしかして、さらなる神隠しが……?
「大変だよ!」
「どうしたんだ? まさか、また神隠しが……」
「キミの姉妹や友達がレイドアロマに来ているんだけど!?」
「はぁ!?」
……思っていた以上に大変なことが起きていた。
「……」
息を潜め、物陰から街の入り口を見る。
エリゼ、アラム姉さん、アリーシャ。
そして、シャルロッテとフィア。
メルが言うように、確かにみんなの姿があった。
ただ、入り口で足止めをされている。
神隠しの件があるから、街に入る許可が降りないのだろう。
あ。
シャルロッテがとてもイライラした様子で、つま先で地面を叩いていた。
衛兵を魔法で吹き飛ばしたりしないだろうか?
……しないよな?
「なんで、みんなが……」
「レンを追いかけてきたんじゃないかな?」
「俺を?」
「黙って姿を消した。どこに行った? 気になる? よし、なら追いかけよう! っていう感じで」
「そんな短絡的なことをするわけが……」
……ない、とも言い切れないのが頭が痛い。
エリゼとアラム姉さんは、基本、賢くて思慮深い。
短絡的な行動を取ることはないのだけど……
俺のことになると枷が外れるらしく、けっこうな無茶をする。
それはシャルロッテも同じ。
気の強い彼女は、納得できないことはとことん追求するタイプだろう。
フィアはそうでもないのだけど……
シャルロッテのために、と手伝うことにしたのだろう。
「まいったな」
みんなを巻き込みたくないから秘密にしておいたのに。
追いかけてきたら、その意味がない。
「どうするんだい? 彼女達が一緒にいたら、荒事になった時、まずいことになるかもしれないよ」
「そうかもだけど……目を離している方が不安、っていう気持ちもあるんだよな」
みんなを守る、っていうと偉そうなのだけど……
なにか起きた時、一緒にいることで、俺にできることはあると思う。
とはいえ、ここで一緒に行動するということは神隠しの調査を一緒にするというわけで……
危険に巻き込んでしまうわけで……
「……ひとまず、俺達のことは秘密にしておこう」
「接触はしない?」
「しない」
たぶん、一緒に調査をする方が危険だろう。
事件の中心に近づいていくわけだから、当たり前の話だけど危険性は高い。
それなら一緒に行動しない方がいい。
どうなるかわからない、という読めない部分はあるけれど……
少なくとも、事件に大きく近づくことはないと思う。
できるだけ早く調査を進めて。
そして、神隠しを解決して。
そうすればみんなに危害が及ぶことはない。
また一つ、事件を解決しなければいけない理由が増えた。
「……」
メルはなにか言いたそうな顔だ。
「なにか?」
「……いいや、なにも。キミがそう決めたのなら、ボクは口を挟まないよ」
なんてことを口にするのだけど、メルは納得していない様子だ。
言いたいことがあれば、ハッキリ言ってくれて構わないのだけど……
「……はぁ」
なんか、もう。
色々なことがうまくいかないな。
頭が痛い。
相手がただの犯罪者なら、みんなに協力をお願いしていただろう。
でも、違う。
ただの勘でしかないけれど、神隠しはただの事件じゃない。
もしかしたら魔王が関わっているかもしれない。
だとしたら、絶対にみんなを関わらせるわけにはいかない。
これは、俺の問題だ。
前世でヤツを取り逃がして、倒すことができなかった俺の責任だ。
それをみんなにも負わせてしまうのは間違い以外の何者でもない。
俺が解決しないといけない。
俺が……やらないといけないんだ、絶対に。
「レンは、色々と損な性格をしているよね」
「……なんのことだよ?」
「さあ、なんだろうね」
メルはニヤリと笑い、こちらに背を向けてしまう。
関わらないのなら、さっさとここを離れよう、と言いたいのだろう。
俺はその背中を追い……
「ピッ」
ニーアの鳴き声が聞こえて、振り返る。
……ニーアとばっちり視線が合う。
ただ、それ以上鳴くことはなくて、ニーアはふいっと視線を戻してしまった。
みんなに俺のことを伝える様子もない。
「なんかもう……ニーアにまで色々と言われている気分だな」
ついつい苦笑してしまうのだった。
「ふむ」
宿に戻り、情報を整理する。
俺が得た情報。
そして、メルが得た情報。
二人の情報を交換して、照らし合わせて、話を進める。
「神隠しの被害者は、魔法学院の生徒で、学部は関係ない」
「ついでに、生徒個人の共通点もないね。平民もいれば貴族もいる。おとなしい子もいれば男勝りな子もいる。優秀な子もいれば劣等生もいる。交友関係もバラバラ」
「そうなると怨恨の線は薄い。脅迫が一度もないから、身代金目的の誘拐という可能性も少ない」
「愉快犯かな? あるいは、誘拐することが快楽に繋がる、特殊な犯人とか」
「もしくは……」
誘拐して酷いことをする。
なんて想像も出てきたものの、とてもおぞましく、口にはしないでおいた。
「……個人的な感想、というか勘だけど」
「どうぞ」
「犯人は、なにかしらの目的を抱えているような気がする」
根拠はない、本当にただの勘だ。
この事件、粘りつくような悪意を感じる。
それと、今まで度々感じてきた魔王の気配もする。
「今まで起きてきた事件……そのほとんどに魔王の気配を感じた。ヤツは俺のことを認知して、間接的な攻撃をしかけていると思う」
「直接的な行動に出ないのは、それができない理由がある?」
「まだ万全じゃないとか、転生のせいで悪影響が出ているとか……そんな感じかな。まあ、推測でしかないけどな」
「なるほど。でも、誘拐がレンにどんな影響を与えるんだい? レンを誘拐事件の犯人にして社会的に抹殺……なんて可能性はあるけど、それはちょっと回りくどすぎるよね」
「そういう可能性は捨てきれないけど、たぶん、違うよな。今回の目的は、俺を攻撃することじゃないと思う」
でも、魔王の関わりがないわけじゃない。
むしろ、魔王にとって、これはとても大事な計画のような気がした。
俺達は身を隠すことなく、堂々と行動している。
それなのに神隠しが続いているということは、この計画を途中でやめられない、ということ。
魔王にとって、それだけ大事なことなのだろう。
「ボクらなんてまったく気にしていない、っていう可能性もあるんじゃない?」
「そういう悲しいツッコミはやめてくれ」
メルの言う可能性もあるんだけど……
でも、それなら、そもそも魔王が俺にちょっかいをかけてこないはず。
俺を敵と認識しているからこそ、今まで色々な事件を引き起こしてきたはずだ。
あれだけのことをやらかしておいて、まったく興味がないということはないだろう。
それなりに脅威に感じているはず。
「敵の目的はわからないけど、絶対に止めないといけない。もちろん、被害者も助けないといけない」
「賛成。でも、手がかりがゼロに等しいのが頭が痛いところだよねー」
「それな」
現時点で判明していることは、被害者は全て魔法学院の生徒。
今のところ生死不明で、戻ってきた生徒は一人もいない。
……それだけだ。
「これが人の手による犯罪として」
メルが考える仕草を取りつつ、ゆっくりと言葉を並べていく。
「方法を考えるのはやめようか。なんか、時間をとられるだけで意味がないような気がするよ」
「だな。それは犯人を特定した後、ゆっくり調べればいい。それよりも、誘拐された生徒達がどこにいるか? っていうところを調べた方がいい」
「それについて、ちょっと思うところがあるんだよね」
メルはテーブルの上に地図を広げた。
この街と、その周辺が描かれたものだ。
「ここがレイドアロマ。で、その周辺がこんな感じ」
レイドアロマは山の麓に作られた街だ。
『コ』の字を描くように周囲が山に囲まれていて、南側だけが開けている。
周囲の山は鉱山として利用されていたが、今は資源が枯渇。
今も機能する鉱山は少なく、鉱山都市としての寿命は終わりだろう。
「あれこれ聞き込みをしてわかったんだけど、被害者って、みんな街の外に近いところで姿を消しているんだよね」
メルは地図のとある箇所を順々に指さしていく。
その全てが街の外側……あるいは、山に入ったところだ。
「人目のないところで犯行が行われている……いや、それだけじゃないか」
「うん。街の外の方が色々と都合がいいから、そこで誘拐をしているんじゃないかな、って思うんだよね」
「ということは、犯人の拠点は街の外……鉱山か?」
「ありえるね。今は使われていない鉱山を拠点にして活動する。鉱山は、人の手が入らなくなって長いから、危ないって理由で、基本、封鎖されている」
「怪しいといえば怪しいが……ふむ」
犯人が街の関係者か、あるいは部外者か、それはわからない。
鉱山を拠点に活動していると仮定して……
神隠しの頻度を考えると、活動はかなり活発だ。
拠点となる鉱山と街を行き来する回数は多いはず。
それなのに、街の人がまったく不審に思わないことがあるだろうか?
鉱山に出入りするところを誰にも目撃されないなんて、あるだろうか?
「どうしたんだい?」
「ふと思ったんだけど……」
ただの思いつきだ。
勘に等しい。
でも、勘は経験によって作られていくもの。
バカにしてはいけない。
「これ……犯人は、意外と身近なところにいるんじゃないか?」