魔法大会が行われている間は、当然、授業は行われない。
 校舎内は空だ。

 たまに生徒が残っているものの、それは極少数。
 ほとんどの生徒は魔法大会の観戦。
 及び、自分達で出店した露店の番をしたり、あるいは他の露店巡りをする。

 基本、お祭りなのだ。
 なにもない校舎に残る者なんていない。

 ……でも、一人の生徒の姿があった。

「うん、できた」

 少女は嬉しそうに言って、教室の床に描いた魔法陣を見る。
 精密に描かれた自慢の作品だ。

 まだ魔力は込めていない。
 タイミングをしっかりと測らないと、また邪魔者が現れてしまうかもしれない。

 まあ、邪魔をされたとしても、実は大して問題はない。
 魔法陣を発動させるよりも、この場所に魔方陣を設置することが大事なのだ。

「これで、あと一つ。今日中に……ううん、無理は禁物。ベストタイミングは明日だから、明日にしよう」

 もうすぐ本物の魔法陣が完成する。
 そうすれば夢が叶う。
 長年、ずっと抱いていた夢が現実のものになる。

「ふふ」

 少女はおさえきれない笑みをこぼして、そっと教室を後にした。



――――――――――



「勝者、レン・ストライン!」

 あれからしばらくして準決勝が行われて、俺は見事に勝利を収めた。

 相手は、名前も知らない生徒。
 でも、ここまで勝ち上がってくるだけあってかなりの強敵だった。
 少し苦戦したものの、そこは経験の差と魔力でカバー。
 最終的に勝った。

 控え室に戻り、体を休める。
 同時にこれからのことを考える。

「今日の試合はこれで終わり。後は自由に動けるけど……」

 今のところ、妙な魔力は感じていない。
 例の魔法陣は設置されていないのか?

 ことごとく潰されたせいで、犯人は諦めて……いや。
 さすがに、それは楽観的すぎるか。
 機会をうかがっていると考えた方がいい。

「さて、どうするか」

 現状、犯人に関する手がかりは少ない。
 魔法陣を調査すれば、犯人に繋がるかもしれないんだけど……
 それは魔力が残っている前提の話だ。
 魔力のない魔法陣を調べても、それはただの落書きでしかないので、あまり意味がない。
 かといって、犯人を調べるために魔法陣をそのままにしておいたら、なにかまずいことになるだろうし……
 ジレンマだ。

「せっかくの魔法大会を妙なことで潰したくないんだよな」

 こういうお祭りは初めてだ。
 前世はもちろん、今世でも。

 前世は戦うことばかり考えていて。
 今世も似たような感じで、娯楽というものに目を向けてこなかった。

 でも、こうして体験すると、とても楽しい。
 よくわからないワクワク感がある。
 なによりも笑顔があふれているのがいい。

 これを守りたいと思う。

「お兄ちゃん、いいですか?」

 控え室の扉がノックされた。

「どうぞ」

 応えると、エリゼが姿を見せた。
 妹だけじゃなくて、アラム姉さん、アリーシャ、シャルロッテ、フィアも一緒だ。

「どうしたんだ、勢ぞろいで」
「みんなで一緒に露店を見て回りませんか?」

 エリゼの目はキラキラと輝いていた。

 魔法陣のこと、犯人を調べたいんだけど……
 でも、せっかくだから楽しみたいという気持ちがある。

「いいよ、いこうか」

 学院を回る必要があるから、ちょうどいいだろう。
 そう判断して、俺はみんなと一緒に露店を巡ることにした。