「援軍なのか、お前が?」

 ゴーレムの後ろにいるシャルロッテの父親……エイルマットは怪訝そうな顔をした。
 魔法を使えない男が援軍に来ても……なんて考えているのだろう。

 ただ、警戒はしているようだ。
 魔法が使えない分、近接戦闘に特化していると予想したに違いない。

「……まあいい。ゴーレムよ、ヤツを倒してしまえ」

 エイルマットの命令でゴーレムが動き始めた。

 ただ、少し……ほんの少しだけ動きが鈍い。
 まるで、必死でなにかに抗っているかのよう。

 たぶん、シャルロッテの意思がわずかに残っているんだろう。
 みんなを傷つけたくない。
 俺と戦いたくない。
 そう思ってくれていて、必死に抵抗しているんだろう。

 シャルロッテが戦っている。
 いいように利用されてたまるものかと、こんな状態にされながらも戦っている。

 なら、俺も格好悪いところは見せられないな。

「火炎槍<ファイアランス>!」
「なっ!?」

 俺が魔法を使うと、エイルマットは二重の意味で驚きの声を発した。

 男なのに魔法を使える。
 結界の中なのに魔法が使える。
 なぜ?

 驚きの意味はそんなところだろう。

 俺が放った炎の槍は、正確にゴーレムの右脚に着弾した。
 軽く怯むものの……
 しかし、それだけだ。
 動きを少し止めただけで、ダメージらしいダメージは与えていない。

「ふむ?」

 今の魔法、必要以上に多くの魔力を込めてはいないが、しかし手加減もしていない。
 それで無傷ということは、かなり装甲が分厚いみたいだ。

 さて。
 それなりに威力の高い魔法をセレクトしなければシャルロッテを助けることはできないだろう?
 なにをチョイスするべきか迷う。

「バカな!? なぜ魔法を使うことができる!?」

 遅れてエイルマットが驚いていた。

「男だというのに……いや、そもそも結界が展開されているんだ! 魔法なんて使えるわけが……そうか! そいつらのように、魔力ポーションを飲むという小細工をしているんだな?」
「いや、そんなことはしていないけど」

 魔力ポーションを利用して戦ってもいいのだけど、少し危うい。
 なくなったらそこで終わり。
 それに、常に魔力残量を気にしなければならないので集中できない。

 だから俺は、問題を元から断つことにした。

「ご自慢の結界なら俺には通用しないぞ」
「なに?」
「解析して無効化した」
「……は?」

 屋敷に入って、最初のゴーレムと戦って、フィア達を探して……
 その間、十分な時間があった。
 なにもしないなんてもったいないこと、するわけがない。

 行動しつつ、結界の構造を解析。
 無効化するフィールドを作り出したのだ。

 惜しむべきは時間がないこと。
 もっと時間があれば、結界そのものを解除したのだけど……
 そこまでは難しいため、ローブを被るように、俺の周囲だけ効果が及ばないようにした。

「ば、バカな……一流の魔法使いでも太刀打ちできないような結界だぞ? かなりの大金をはたいて手に入れたものだぞ? それなのに、こんな子供に解析なんてできるわけが……」

 失礼なヤツだ。
 俺は子供じゃない。
 大人という歳でもないけど。

「まあ、そんなことはどうでもいいんだ」

 そう、どうでもいい。
 今はもっと大事なことがある。

 シャルロッテを助けて……

「とりあえず、一発殴らせてもらうからな?」

 ふざけた男を痛い目に遭わせてやらないと気が済まない。

「くっ……いけ、ゴーレム! 全力で潰してやるんだ!」

 自分で戦うことはしない。
 あくまでもゴーレム頼り。
 娘頼り。

 なんて男なのだろう。
 こんなヤツが父親なら、シャルロッテも男嫌いになって当然だな。

「オォッ、オオオオオ!!!」

 ゴーレムが吠えた。
 足の裏に推進力を生み出す装置がつけられているらしく、爆発的な速度で突撃してくる。
 その加速力を拳に乗せて、突き出してきた。

「金剛盾<シールド>!」

 魔法の盾でゴーレムの攻撃を防いで、

「風嵐槍<ウインドランス>!」

 カウンター。
 もう一度、右足を狙う。

 やはりダメージは通らない。

 本当に固いな。
 これだけ固いと、どこまでの魔法を無効化するのか詳細な実験をしたくなってしまう。

 まあ、今はシャルロッテが最優先なので、そんなことはしないけど。
 本当だぞ?

「もっとだ、もっと力を見せてくれ! お前は最高傑作なんだ!」

 ゴーレムは再び突撃してきた。
 同時に魔力の流れを感じる。

 ゴゥッ! と空気を抉るような一撃。
 それと同時に業火が生み出され、獣のように暴れ回る。

 広範囲を炎で焼き尽くす、『炎烈牙<フレアストライク>』だ。
 シャルロッテを生体ユニットとして利用することで、攻撃をしつつ魔法を唱えるという二重の行動を可能としているのだろう。

 拳が迫る。
 避けたとしても、ワンテンポ遅れて業火が迫る。
 その炎は俺だけじゃなくて、後ろにいるみんなもターゲットになっていた。

 回避したらみんなが巻き込まれてしまう、というわけだ。
 敵ながら、なかなかの作戦だ。

 さて、どうする?