「へぇ、それでお母さんと妹ちゃんと仲直り出来た?」
「うん。お母さんも新しく出来た妹にどうすればいいか迷ってたみたい。それに姫香と今度遊びに行くことにしたの。せっかく出来た妹だもん。これからは楽しいこといっぱいしていくつもり」
「そっか、良かった。有紗の顔が生き生きしてて俺も嬉しい」

 私と翔は海に来ていた。海に入らないし、浜辺を散歩するだけだけど。翔にあの日の家での出来事を報告すると翔は嬉しそうに聞いてくれた。

「じゃあ俺の役目ももう終わりかな」
「え?」
「有紗の笑顔も見れたことだし、そろそろ行くね」
「行くってどこに?」
「空」

 翔は上を指さした。

「有紗、怒らないで聞いて。有紗と初めて会った日、俺は死のうとしてたんだ。だから階段から落ちた」
「……なんとなくそうじゃないかと思ってた」

 時々私が翔に見惚れたのはきっと彼が死を覚悟していたからだ。

「そっか。あのね、妹が病気で死んだの。妹はずっと入院ばっかで俺が勉強を教えてた。妹は全部諦めてて、親も妹を放ったらかしだった。そんな状態で妹が最後に口にしたのがお兄ちゃんと一緒にいたいって、そう言ったんだ」
「うん」

 翔の声が震えていく。

「だから俺、妹のとこに行かなきゃいけない。最後に有紗が笑顔になってくれて良かった。妹に出来なかったことを有紗に押しつけてごめんね」
「ううん。それで翔はどうしたいの?」

 私は翔が本当のことを話してくれたら言おうと思っていたことをずっと決めていた。彼が私に素直になっていいって言ってくれたように私は彼の気持ちを知りたい。空っぽだった私はいつの間にか翔でいっぱいになっている。素直になれって言ったのは翔だよ。
 スゥと息を吸う。

「私は翔とずっと一緒にいたい。翔のおかげで前に進めた。私はもっとずっと翔のこと知りたい。翔、言ったよね。俺はこの一ヶ月は有紗のものだって。だったら一生一緒にいてって私は言いたい。それで翔はどうしたいの?」
「おれ、俺はもっと、生きたい。うぁ、ごめん、ごめん。行けなくてごめん」



 

俺は有紗のその言葉で妹が死んでから初めて涙が出てきた。有紗と一緒にいたのはただ俺が死ぬ勇気がなかっただけだ。

「いいよ、もう。私も死んだら妹ちゃんと会いに行くから、その時一緒に謝ろう」



 泣き崩れる俺を有紗は抱きしめてくれた。









 俺が夏に出会ったのは寂しがりやで心優しい一人の女の子でした。俺は今度は彼女のそばで生きます。