だけど結局、三花さんは晴を預かるに至った経緯を上手に説明することができなかった。
晴が襲われたってクダリを丸々すっとばして話をしたからだ。
けれど肝心なところを伏せた曖昧な説明じゃ理解なんて得られない。
たいした理由もなく年頃の男女を一つ屋根の下に住まわせるっていう非常識に、当然、遥さんは眉をひそめた。

「だってどう考えたっておかしいでしょ? 高校生の男女を一緒にだなんてーーー」

遥さんの言い分は正しい。
ホントは三花さんだってそんなことは百も承知なのである。

「ももも、もちろん、そーです! そーなんですけど・・ええっとーーー」

と言ったきり、三花さんはついに何も言えなくなってしまった。
ゲンコツをぎゅうぎゅうと眉間に押し当てて、必死で打開策を探る三花さん。
が、しかし。この場を収める最適解を今スグとっさに捻りだすなんて簡単なことじゃない。三花さんに何のアクションもないまま、柱時計の、こち、こち・・という音だけがしーんと気まずい居間に時を刻んでいた。

で、そんな中。私はといえばーーー

情けないことに、恩人・三花さんのピンチに私は無力だった。
このままじゃアカン。なんとかしなきゃ・・とは思うものの、どうしたらいいのか全くわからない。向かいに座る大人ふたりの顔を交互に盗み見ながら、私はただ、膝の上でグーを握りしめていただけ。
ああ、不甲斐ない・・と、自分自身に小さくため息をついた時。
ずーっと黙って静かにしていた晴が、いきなりボソッと声をあげたのだ。

「ーーーおばちゃんはなんも悪くない。全部、オレのせい・・」

三花さんが伏せてた部分に晴自らがメスを入れる。
父親の恋人に襲われて家に帰れなくなったんだ、って。

「おっ・・おやじのおんなに、襲われた・・・・!??」

目を真ん丸く見開いた遥さんがワナワナと震える。
ちょっとムスッとした顔でそれに頷いてから、晴はここにやってきた日のことを遥さんに説明しはじめた。順を追ってひとつひとつ丁寧に。
三花さんへの誤解が解けるように。

「ーーーそれで、おばちゃんに無理言ってここにおいてもらってたんだよ。あの女のいる家に帰りたくなかったから」

しばらく絶句してた遥さんは、そのうちハラハラと涙を流し始め、そして土下座するみたいに畳に突っ伏すと、そのまましばらくわんわんと泣き続けた。
晴と三花さんに「ごめんなさい」って繰り返して。