「じゃあね」と車に乗り込む男の背中を眺めながら、私は今は亡きママに思いを馳せていた。

私の知らないところで、ママはいったいどういう人生を送ってきたのだろう。
恋多き人だって思ってた。ママは美人だったし、きっと男の人にモテるんだろうなって。
だけど彼らは、ママが心から好きでつきあってた『本当の恋人』だったのだろうかーーー

今のひとだって。
ママがいなくなったからって、娘に声かけるとかフツーじゃない。

「じゃあね。一花ちゃん、元気で」

お手入れの行き届いた黒い高級車。
ピカピカの窓をがーっておろしてニコニコと手をふるママの元恋人に、私は黙ってペコリと頭を下げた。私のすぐそばをゆっくりすり抜けていく車を、私はボーゼン
嫌な男だった。
やたらニコニコと愛想がよくて、稼いだお金を家族のためじゃなく愛人を囲うために使う男。

ねえママ、ホントにあいつのこと好きだった?
もしかして、お金のためにーーー私を育てるために、我慢してあいつの『愛人』やってたの・・?

堤さんの出現は、ママに守られてボーッと呑気に生きてきた私にはあまりにもショックの大きな出来事だった。