そして。

まだグズグズと鼻をすすってる晴の腕をそおっとほどいて。
ぐいと顔をあげた私の腹は、最早シッカリと据わりきっていた。

「明日、市役所に行ってくる。私、施設に入る」
「え・・・・」
顔を強張らせて何か言おうとする晴を制止して、私は三花さんに向き直った。
「三花さん、今までここにおいてくださってありがとう・・」
ほんの数か月だったけど、3人ですごした楽しい記憶がアタマの中を駆け抜けた。

ーーーなるほどなるほど。これが走馬灯ってヤツか。
生まれて初めて見た走馬灯に思わずふふふと笑いが漏れる。
なあんだ。とっても素敵じゃないか。
辛いことも苦しいこともいっぱいあったけど、幸せな思い出だって山ほどある。
だからきっと、私はどこでだってやっていける気がするのだ。

「あの人と結婚してよ、三花さん。ここに呼んで一緒に住んだらいいよ。晴ももう家に帰れるから。晴のお父さん、あの(ひと)とは別れたんだって」
「い・・いちかちゃんーーー」
「私ホントに三花さんが大好き。だから幸せになってほしい」

私の隣で唇をワナワナ震わせて歯を食いしばってた晴がガバッとちゃぶ台に突っ伏した。
その向かい側から三花さんが手を伸ばして、晴の頭をよしよしと撫でる。
「晴くん、顔あげて。大丈夫だから」
「なにが!? なにがどう大丈夫なワケ!? ねえ!!」
頑なに顔を伏せたままギャンギャン叫ぶ晴を見て、三花さんがウフフと笑う。
んで、さらりと爆弾発言を投下。

「あのね、私、裕太とは結婚するつもりないんだ」

「「え!!!」」

「だってヒモなんだもん。あんなのと結婚したって幸せになんかなれない」
「で、でもさっき『好き』ってーーー」
三花さんがうんうんって頷く。
「好きなんだけどね。んでも、裕太とは別れるつもり」



「「ーーーええええええ!??」」