「なあ一花、オレんち来れば?」
「晴の家?」
私を抱えたまま、晴がうなずく。
「嬉しいけどさあ・・ふふふ」

バカだなあって。ちょっと笑ってしまった。
そんなの無理に決まってるじゃないか。
学校へは何て届けるんだ。佐山くんと一緒に暮らしてますなんて言えない。
そもそも晴のお父さんがいいって言うわけがない。晴ひとりだって持て余してんのに、見ず知らずのよその子なんて受け入れられるはずがないのだ。

「無理だよ。だけどありがとう」

あと2年。
それだけ凌げればなんとかなるって思ってた。
だけどその『2年』は私が考えてたよりも、うんとずっと長かったのだ。

「一花、オレとちゃんとつきあお?」

顔をあげると、とってもマジメな顔をした晴がじっと私を見ていて。
そういえば私たち、こんんなふうにキチンと言葉にしてお互いの関係を確認したりしてなかったな、って思い当たる。

だけど、もう簡単にはウンって言えなくなった。
「つきあえないよ、こんなんじゃ・・」
「なんでだよ。全っっ然、つきあえるわ」
晴がぎゅっと唇を引き結ぶ。
「いい? オレもう一花の彼氏だからな? オレ抜きで勝手に何か決めたら許さねえ!」

晴が私の腕をひいて立ち上がる。「今からおばちゃんと話ししよーぜ」って言って。
だけど私は立ち上がれなかった。
だって三花さんと何をどーいうふうに話せばいいかわからない。

「まってまって。私まだーーーコレって解決策がいっこも浮かばない」
「だから、それをみんなで相談するんだろ!?」 
晴がもう一度私のそばに座ってぎゅうっと抱きしめてくれる。なんとかしてやるから、絶対大丈夫だからーーーって。

「晴・・ありがとう」

蚊の鳴くような声でそうつぶやくと、晴はちゅってひとつキスをくれたのだった。