「一花・・何考えてる?」
晴が不安そうに私の顔をのぞきこむ。
「おばちゃんはおまえのこと見捨てたりしねーよ、絶対」

そうなのだ。私も知ってる。三花さんって、そういう人だ。
だけど、むしろ三花さんのそういう律儀で情に厚いところがーーー

「三花さん、私がいたら自分のこと後回しにしちゃう・・」
親戚でもなんでもない私のために、三花さんの人生が削られるようなことがあってはならない。絶対に。
「私、あの家を出ていかなくちゃ・・」
「出てくって、どこ行くんだよ。行くとこあんのかよ!?」

ぶっちゃけ行くとこなんてどこにもなかった。

「ーーーそうか、施設!!」
って叫んだら晴が真っ青な顔して首を横にふる。
「施設はダメ!! こないだ事件があったばっかじゃねーか。おまえ知らねえの?」
隣の県の施設で常態化していた職員による未成年女子への暴行事件。
「知ってるよ。んでも事件があったばかりなら逆に安全なんじゃ・・」
「ダメ!! まずは父親んとこだろ! どこ住んでんの?」
「殿山にいるんだけどさ、奥さんが反対してるんだって。だから一緒には暮らせないって」
実は父の家庭には奥さんの連れ子がいて、その子が私と同い年の男の子。
「何かマチガイがあったら大変だからって、それで奥さんが同居に反対でーーー」
そしたら、よりいっそう顔を青くした晴がガバリと私に抱きついた。
「そこも却下!! 絶っっ対にダメ!!」
だけど実際のところ、施設か父かの2択なのだ。私にはほかにアテがない。

「私のこともだけどさ、そろそろ晴も家に帰りなよ。あの女の人、まだ家に出入りしてるの?」
そう聞くと、晴は「ぐっ・・」て言葉に詰まって黙り込んだ。
「もしかしてあのひと、お父さんともう別れた・・?」
「・・・」

なんだ、そっか。
晴は家に帰れる。
私だけだ。
私だけが三花さんの足をひっぱってる。