「晴、アレつけて」
「んじゃ、竿貸せ」

少し離れて座ってる晴が、私のほうへ手を伸ばす。
私から竿を受け取ると、ちっちゃな箱からニョロニョロしたすんごい気持ち悪い虫を1匹つまみだして、そいつを針の先にひっかけた。
「ホイ」って返された竿の先にぶらがるクネクネ。
この虫をくっつけるようになってから、私たちのアジ釣りの釣果は驚くほど上がった。腕は変わんないのに、この虫にアジが勝手に食いついてくるからだ。

「うう、気持ちわる」

何度見ても気味の悪いクネクネから目を逸らしつつポイと竿を振る。
虫はヤだけど、我慢できた。だって釣りたてのアジのお刺身は絶品なのだから。

「もーちょい釣ったら帰ろうぜ。イソメが切れる」
「うん。わかった」

2人の真ん中に置いてあるバケツの中を覗けば、自然、頬が緩んだ。今日はなかなかに大漁なのだ。
ああ、たのしみ。お刺身に、フライ。たくさん釣れたら南蛮漬けも作りたいって三花さんが言ってた。

私たちはたっくさんアジの入ったバケツをかかえて、意気揚々と帰宅したのだった。