で、生まれて初めて釣竿を手にした私たちが、首尾よくアジを釣りあげられたかというとーーー

「なんでだよ! 一匹も釣れねえ!!」
「む、難しいモンなんだね・・」

日が暮れるまで頑張ってみたけど私たちの釣果は結局ボウズ。
ビギナーズラックは訪れなかった。

空っぽのバケツと釣り竿を片付けに行ったまま全っ然戻ってこない晴の様子を見に倉庫へ行ってみると、晴はピカピカした魚のオモチャみたいなモノをつまみあげて、それをしげしげと眺めているところだった。
「これつけたらデカイのが釣れんのかな?」
「さーね。わかんない」
晴が悔しそうにため息をつく。
アジ釣ってやれなくてゴメンな、って。

「最初はこんなもんだよ。明日また釣りにいこ?」
晴の隣にしゃがみこんで顔をのぞくと、当たり前みたいに私を抱きよせて晴がキスしようとする。
「うわ、チョット!!」
バッテンに重ねた両手で近づいてくる晴の唇をガードした。

「キスしないでって言ったでしょ!?」
「なんで??」
「だって『つきあってない』もん。それに抱きつくならチョコ前払いして」
がめつくハグ代を要求する私に、晴が心底イヤそうな顔をした。
「オレ、いつまで一花にチョコ支払えばいーんだよ!」
「ずっとに決まってんでしょ。タダで抱きつけるなんて思わないでね!」