つい先日のことだ。
買い物から帰ってきた三花さんが小さなビニール袋を晴に差し出した。
「これ、晴くんにお土産」
「なになに? オレに??」
晴がいそいそと袋をあけると、中から出てきたのは新聞紙に包まれた丸い塊。
「なんじゃこりゃ。おばちゃん、なにこれ?」
「うふふ。あけてみてよ」

ガサガサと包みをとくと、新聞紙から顔をのぞかせたのはぽってりとした陶器の白いお茶碗だった。

「うっわあ、ステキ。んで高そう!!」
作家モノみたいなシンプルでカッコイイお茶碗は三花さんの好みだ。
「ヨカッタね、晴!」って顔を見たら、晴はお茶碗を両手に抱えたまま、ポッカーンて呆けてた。
「あれれ、もしかしてあんまシュミじゃなかった?? ちょっと渋すぎたかなあ・・」
三花さんが声をかけても反応がない。
不安になった三花さんと私が顔を見合わせていると、キラキラと目を輝かせた晴がそおっと顔をあげたのだ。

「おばちゃん、ありがとう・・オレ、自分のお茶碗とか、初めて使う!!」
「「え・・・・」」

くるりくるりと何度もお茶碗をひっくり返しては、いろんな角度からしげしげと眺め続ける晴の様子は私たちの涙を誘った。
その夜、晴は炊きたてのごはんをたくさんおかわりした。自分専用の初めてのお茶碗で。

ーーー今思い出してみても、アレは胸にくるひとコマだった。

ズルいやつだ。
母性本能を鷲掴みにきやがる。

今だって。
足なんてとっくに痺れちゃってんのに、いつまでたってもこのデッカイ頭をおろせない。

「ーーーねえ晴、もう足が痛い」