「おい」って呼ばれて佐山の顔を見上げると、にゅってのびてきた指が私の口元をぐいとぬぐった。
「たれついてる」
「え・・」
当たり前みたいな顔してその指をペロリと舐める佐山にドキリと心臓が跳ねて、バクバクバクバクーーーって胸が鳴り始めた。
ままま、まさか・・私、こいつにときめいちゃってんじゃないだろな!?

ざわざわと五月蠅い店内。
脂っこいカウンターの隅っこで、私は慌ててラーメンどんぶりを抱え直した。
いやいやいや。有り得ない。きっと何かの間違いだ。

ズルズルとラーメンをすする私に佐山が顔をよせてくる。
「なあ、一花って呼んでいい? オレも晴でいいからさ」
「・・は?」
「名前だよ。不便だろ、オイとかオマエとかじゃ」
「ああ・・まあね・・」

そんな会話をしながら、佐山が最後にひとつだけ残ってた餃子を箸でつまんでチョイチョイってたれをつけたのを、意地汚い私は見逃さなかった。
「ズルイ! それジャンケンしよーと思ってたのに!」
ムッと顔しかめて文句言う私を、佐山が可笑しそうに笑う。

「一花、あーん」

思わず開けちゃった口の中へ佐山がポイって餃子を放り込んだ。
「嘘、いーの?? くれるの?」
返事をする代わりに、佐山がおしぼりでゴシゴシと私の口の周りをぬぐう。
んで、言うのだ。また一緒にメシ食いに行こう、って。

「一花の好きなモノ、なーんでも食わせてやるからさ」

『メシ』の二文字につられて、言われるがまま首を縦にふる。
「じゃあ次は何食う??」って嬉しそうに身体をよせてくる馴れ馴れしい佐山をかわしつつ、ふと思ったのだ。
もしかして私、胃袋掴まれちゃってんじゃないだろか、って。