ここに来る前、佐山にぶつけた心ない言葉を思い出して、私は頭を抱えた。
どうしよう、私とんでもないことしちゃったーーー
罪悪感で胸がギシギシと苦しい。

「酷いこと言ってゴメン」

せめてもの罪滅ぼしに、ベンチの上で膝を抱えて縮こまる佐山の大きな背中を必死でさすった。
元気、出してほしくて。
イヤなこと、早く忘れてほしくて。

「・・・」

捨て猫のような目をした佐山が私をじっとみつめる。
んで、「なあ、お願い。チョットだけ・・」ってモゴモゴつぶやいたと思ったら、突然ぎゅうっと抱きついてきたのだ。

『ギャーーー!!』って悲鳴を必死で飲み込む。 

や、やだ、こんなの・・!!
いくらなんでも、ここまでしてやる義理はない。だけど後ろ暗い気持ちを抱える私は、縋るようにしがみついてくる男を堂々と突き飛ばすことができなかった。
顔をひきつらせて固まる私の耳元に佐山の声が響く。

「おまえ、寿司食いたくない?」
「っっす・・寿司!??」
「それか焼き肉。高級フレンチでもいい。しばらくこーしててくれたらどれでも好きなもん食わしてやるよ」

「ーーーワカッタ。んじゃつきあったげる」

ありがと、って言いながら佐山がいっそうガッツリとしがみつく。
しょぼくれた男の背中をゆるゆるとさすってやってると、そのうち耳元でグスッて鼻をすする音が聞こえはじめた。
「あんた・・まさか泣いてるの!?」
「泣いてない」
目元を確かめようとする私を抑え込んで、絶対に顔を見られないように頑張る佐山。

「嘘ばっかし。泣いてるくせに」
「おまえだって、さっき海で泣いてたじゃねーか。涙の跡がついてたぞ」

「・・・」

気づいてて黙ってくれてたのかーーー
佐山の思いがけない心遣いにすこーし胸があたたまる。