そこからの数分は、たぶん、佐山にとっては地獄のような数分間だったのではいかと思うのだ。

悪魔のような微笑みを浮かべたお姉さんが楽しそうに目を細める。
「ねえ、あんた。晴くんのサイズ、おしえてあげよっか?」
「サイズ?? なんの・・??」
「ウフフ、晴くんのーーー」
彼女が左右の人差し指を私の目の前で上下にゆっくりとひろげてみせる。

「!!!」

これ以上はもう、とても私の口からは言えない。
佐山は彼女からこれでもかってほどの辱めを受けた。

私にもなんとなくわかった。
彼は力ずくで暴力をふるわれたわけじゃない。おそらく、彼女の持つ強烈な迫力と言葉に飲み込まれて逃げられなくなったのだ。
だって今も私たち、蛇に睨まれたカエルみたいになっちゃってる。

再びの悪夢に見舞われた佐山のプライドはきっとズタボロ。
魂が抜けたみたいな顔して呆けてる佐山は、今はチョット・・使い物にならない。
私がなんとかしなきゃ、って思った。
だって私、そのために連れてこられたんだから。

私は佐山の後ろから飛び出して二人の間に割って入ると、思いっきり声を張り上げた。
「おっ・・お話中申し訳ありませんが!!!」
虚ろな目をして私を見下ろす佐山の手をガシッて掴み、「私たち、もう失礼します! サヨナラ!!」って叫んでヤツの手を引いて玄関を飛び出した。
右手には玄関で拾ったふたりぶんの靴、左手には佐山。ゴミだらけのバッチイ階段をくつしたのまま一気に駆け下りた。