うすーく開いたドアの中から、濃ゆい生活臭がふわわーんと漂う。

その途端。
汚れ物がテンコ盛りのシンクだとか。
敷きっぱなしのしけった煎餅布団だとか。
脱ぎ散らかされたままの洗濯物の山だとか。
ネガティブな汚部屋の妄想が怒涛の勢いで脳内に湧き上がった。

「う・・うぷ・・」

私は口元にグーを当て、失礼のないようにコッソリと吐き気をガマンした。
荒んだ住宅に父親とふたり暮らしだ。掃除なんかしてないに違いない。

ーーーイヤだ。この中、絶っっっ対に入りたくない・・!

通路に立ち尽くして待機の構えをとりはじめる私を、玄関の中から顔を出した佐山が訝し気にみつめてくる。
「なにしてんだよ、早く入れよ」
「ヤだ。ここで待ってる」
そしたらヤツが怒りの滲んだささやき声で私をなじるのだ。
「冗談だろ!? おまえも入れ。あの女が中にいたらどーすんだよ!!」
「え!??」
佐山の訴える『可能性』にギョッとした。

「・・いるの? 中に?」
「それがわかんねーからおまえをわざわざ連れてきたんだろが! 早くしろよ!」
「や、やだ・・!!」
尻込みする私を佐山は無理矢理玄関にひきずりこんだ。
「フザけんなよ、オレを見捨てたら許さねえ! なんもおごらねえからな!」

佐山宅の玄関は足の踏み場もないほど靴が脱ぎ散らかされていたけれど、見たところ女物の靴はない。

「よかった・・いないんじゃない? 私ここにいるから早くして!」
「部屋までつきあえ」
「ええっ、ヤだ!!」
狭い玄関の中で後ずさる私にすんごい腹立たしげに舌打ちしてから、佐山がガシッと私の腕を掴んだ。
「美味いモン食いたきゃついて来い!」
「やだあああ!!」