佐山に連れられて行った先は、船入にあるボッロボロの公営住宅だった。

な・・なんじゃ、ここはーーー!?

古くて汚い建物。エントランスや各部屋の玄関前に積まれたゴミの山。
『ドン底住宅』って名前は伊達じゃない。

集合ポストの郵便受けを開けて中を確認する佐山の足元には、チラシやDMがゴミ、ホコリにまみれて散乱していた。
周囲を見回してみれば敷地内にはいろんなモノがごちゃごちゃと放置されていて、とにかくあっちもこっちもがゴミゴミしい。生い茂る雑草にまかれて藪みたいになった植え込みの中には、壊れた電子レンジまで突っ込まれている。

凄いな。スラムか廃墟みたい。

「な、なんかこの住宅、異常に荒んでんね?」
いろんなイミを込めて恐る恐る声をかけてみるも、
「まあ、公営住宅なんてどこもこんなもんじゃないの?」
なんてケロッとしてる佐山は、私の匂わせる『含み』に全く気づかない。
ーーーなにが『こんなもんじゃないの?』だ。んなワケあるか。
よそ様の公営住宅に謝れ!!
・・って、私は胸の中で毒づいた。
佐山は、このゴミためのような環境に何も感じていないらしい。

そんな佐山に連れられて階段を上がった先、3階の角部屋がこいつの自宅だった。佐山宅も、周囲のゴミ部屋とどっこいどっこいの荒み方をしている。
佐山はベコベコのボロいドアの前に立って小さな鍵を取り出し、それを極力静かにそおっと鍵穴にさしこんだ。
真っ黒に黒ずんだきったないドアノブ。それを慎重に手前に引きながら、中の様子を窺う。
佐山の厳戒態勢は例の女との鉢合わせを恐れてのことだったんだろうけど、この時の私は住宅そのもののヤバさに気を取られ、女のことなんか頭から完全にスッポ抜けていた。