「あんた、なんでこんなとこにいんの? なんか用?」
「そうそう。ちょっと頼み事」

何かと思えば、船入の自宅に帰りたいからついてこいって言う。
「なんで私が!? ひとりで行けば?」
「だってあの女がいるかも」
すんごい大事なものを取りに帰りたいんだけど一人じゃ嫌だって言うのだ。ヤンキーのくせに。

私は思った。
男が女に襲われたところで、それが何だっていうんだろう。アンタの好きなようにすればいいじゃないか、と。
男なんだから、どうにだって選べるのだ。女とは違う。
そのまま襲われるもよし、お断りするもよし。

「なにビビってんの? 勝手にしてよ」
「オマエ・・怖っ・・」

私がヤだって言っても、佐山はしつこく食い下がる。トラウマだのなんだの言って。しまいにはオイシイ交換条件までぶら下げてきた。
「んじゃ、つきあってくれたらお前の好きなもん何でも食わしてやるよ。オレのおごりで」
「え!!」
「さっき金入ったし」
佐山が得意そうにお尻のポケットからしわくちゃの茶封筒を取り出した。で、お札の端っこを3枚、封筒の口からちょこっとひっぱり出してみせつけてくる。
しめて1万2千円。
「うわ!! これ今日働いたぶん!?」
「そう。日雇いで即金だからすぐもらえる」
「わかった、行く! あんたんちどこ?」
元気よく立ち上がった私に佐山が呆れる。食い物に目がくらみすぎだって言って。
その通りだけどしょうがない。だって次に外食ができるのなんて2年は先になる。食べたいものは山ほどあった。

バス停に行こうって言う佐山をひきとめて、私はまず海のそばのジェラート屋さんに向かった。
「先にデザート食べとかないと、おなかいっぱいになったら食べられなくなる」
「おまえねえ・・」
早く家に行きたいって言う佐山を無視して、私はジェラートをトリプルで食べた。
「うう、食べ過ぎた。おなかいっぱい・・」
「おまえもしかしてバカ!?」