翌朝。まだ暗い早朝の台所へそーっと足を忍ばせていた私は居間にうっすらと灯りがともっていることに気がついた。
そおっとのぞいてみると、佐山が小さな灯りの下でガサゴソと身支度を整えている。

「おはよう。早いね。あんた何してんの?」
居間の入り口から顔をつっこんで声をかけると、びくーっと肩を震わせた佐山がすんごい顔をしてこっちをふりむいた。
「脅かすなよ、バカ。ビビんだろが!!」
「どっか行くの?」
「バイト」
「バイトおお!? てかあんた、なんで学校行かないの?」
「なんででもいーだろ。口つっこんでくんな」
フンと顔をそむけて慌ただしくリュックを肩にひっかけ、玄関に向かう佐山。
新学期早々からの連続欠席。その理由はーーー
「もしかしてずーっとバイトしてた?」
「そーだよ。金がいるの!!」
イラっとそう言い残して、佐山は家を出た。

あれはきっとどこかの現場で肉体労働だ。道路工事でよく見るもん、ああいう格好の人。
ヤツの出て行った玄関に小さく頷いてから、私は台所へと向かった。
三花さんは夜も朝も遅いから、私は自分の朝ごはんとお弁当、それと三花さんのブランチを作る分担をさせてもらっている。
朝と昼をそうやってやりすごしたら、夜は三花さんの働く居酒屋のまかないをご馳走になる。それが足りない時は冷凍のごはんや簡単なおかずを何品か足して。