家に帰ってみると、晴から連絡を受けていたらしい三花さんが玄関で私たちを待ち構えていた。

「どうしたの!? 何があったの? なんかマズイこと!?」

大騒ぎする三花さんに晴が「大丈夫。なんもない」って繰り返す。とてもじゃないけど、私のしようとしていたことを三花さんに話すことはできなかった。

込み入った話を避けるように「遅いからもう寝る」って言い出した晴は、三花さんに2階への宿泊希望を申し出た。
「おばちゃん、今夜だけ一花と一緒に寝てもいい? 絶対なんもしねーから」
「えええ・・!? チョットまって、どーゆうこと??」
三花さんが慌てて私のほうを振り向き、縋るような目でこちらをみつめる。
が、私は我儘を承知で晴の方針に追随した。今夜だけは晴といたい。晴の体温を感じながら眠りたかった。
「ーーーゴ、ゴメン、三花さん。晴と一緒にいてもいい?」
「そりゃいいけどさあ・・もうなにがなんだかーーー」

「ヤッタ!! おばちゃん、ありがと!!」

三花さんに満面の笑みを送りつつ、晴が私の背中を押してお風呂場へと向かわせる。
「先に風呂入って。一花が出たらオレもすぐ入るから」
「あ。そういや私、夕方シャワー浴びてんだよね。んだから別にーーー」
と、言いかけた私を晴がイライラと遮り、すんごい目つきで私を睨む。
「オマエ・・ホンっっトにそれでいーわけ!? そのままで!??」
「ーーーーーあ・・!!」
「・・信じらんねえ。セーカクが雑すぎんだよ!!」
顔を引き攣らせた晴がポイと私を脱衣場に押し込んでぴしゃんと扉を閉める。

扉の向こうには、まだ晴と三花さんの声が聞こえていた。
事情を聞き出そうと頑張る三花さんを晴が誤魔化している。

「あーオレ、トモダチに電話しなきゃいけねんだった! ゴメンね!」
と言って逃走した晴に「あんた、スマホなんかもってないでしょ!! 電話ならそこからかけなさいよーーー!!」と三花さんが叫ぶ。

無理めな設定だったが一時凌ぎには成功したみたい。
だけどずっとは無理だろう。
今夜は見逃してもらえても、明日はきっと逃げられない。
三花さんになんて言うか、後で晴と相談しよ。
そんなことを考えながら、私はあったかいお湯にちゃっぽんとつかったのだった。