宙に浮いたままの私の両手を、晴のあったかい手がシッカリとつつみこんだ。
「もう腹括ってよ。別れるほうじゃねーぞ。オレと一緒に生きるほう! この金はオレらの未来のために使お? オレのこと好きならそうしてよ」
手元に落ちてた視線をゆっくり上げると、じいっと私をみつめる晴と目が合った。

「なあ、好き? オレのこと」
「好きに決まってんじゃん、大好きだよーーー」

晴がすんごい好きだから。
大事なモノをイッパイ手放して、その代償に晴の未来を掬い上げようと思ったのだ。

それなのに。

「晴のこと好きすぎて失敗した。心がついていかなくて」
「バカだなあ。そんなことしてくれなくたっていーんだよ」

んだけど、やれるだけやりつくしてみたおかげか、ここにきて私はやっと「もういいや」って思えるようになっていた。
愛人計画は失敗。
リベンジをとも考えたけれど、晴から『愛人やってよし』の許可がおりてしまい、計画そのものが意味を失って破綻した。
もうこれ以上は、何も思いつかない。
私の中で何かがシュルシュルと萎んでく。心が妙に凪いでいる。

これってつまりはーーー『気がすんだ』のである。

ふたり一緒の未来を手探りしようって言う晴に、私は頬を染めてこっくり頷いちゃっていた。それもいいかな、なんて思いながら。

そんな私の様子に満足そうにうんうんと頷いていた晴。
私の後ろ頭をするりとひとつ撫でてから、「よおッし。んじゃ、おっさんのとこに行こ」って言いだした。
「なっーーーなんで?? なにしに・・!??」
「バッグ返してもらいに行くの! でもってあのエロジジイに愛人の話をキッチリ断ってやんだよ」
フンと勝ち誇ったような顔して晴が笑う。

私の手をとって立ち上がった晴は、なんだかとても頼もしい、シッカリとした大人の男のような顔をしていた。