ベンチにうずくまったまま終わりの見えない逡巡に囚われ、気がつけば2時間近くが経過していた。

もう何もかもが面倒だった。
アレコレと考えることもしばらく前にやめてしまった。
眠気に抗えず落っこちた瞼はナマリのように重く、構内の喧騒ももはや耳に届かない。
けれども。
しいんと水をうったような静けさの中に、突如としてズダダダダっていう物凄い足音が響きわたったのだ。それにつられて一気に意識が引き戻される。
パチリと目を開けて改札の向こうに目をやると、モーレツな勢いでこっちに走ってくる男がひとり。
アレはもしかしてーーーいやいや、もしかしなくたって間違いなく晴である。

「・・うそ、なんで!??」

むこうもすぐに私に気がついて、改札を挟んだあっちとこっちでバッチリと目が合った。
血の気のない真っ白な顔をした晴は、私の姿を確認した途端、悲壮感漂いまくる表情をホッと安堵にゆるませた。
が、それはほんの一瞬のこと。
不安げな空気なんかあっという間に霧散して、代わりに晴が纏ったのは怒りに満ち満ちた凄まじく不穏な何かだった。

「こっ・・怖ああっっ・・・・」

世話焼きのオバチャンみたいな性格の晴がカワイく思えるのは、糖度の薄い見た目とのギャップが際立つからだ。女子はそのコントラストに萌えるのである。
それなのに。
元々ヤンキー風味のお顔立ちの晴がこんなふうに怒ってしまえばどーなるか。
見た目にドハマりして、ただただ怖いだけの男に成り下がってしまうのである。

その凄まじい眼光の鋭さに、私は震え上がった。
あんまり怖いから目え逸らしときたいなって思うのに、怒りに歪んだ晴の顔からどーしても目を逸らせない。

本物のヤンキーみたいな晴の顔をみつめながら、私は必死で考えを巡らせた。
一体全体、晴は何をあんなに怒っているのか、と。

身に覚えがあるといえばあるのだが、堤さんの件を晴が知っているハズがない。
じゃあ、なんで?
ーーーメモに行き先書いてなかったから?
ーーー遅くまでひとりで出歩いてたから?
ーーーそれともこの露出の多いワンピースのせい?
思いつく限りの可能性をあげてみるが、どれも違う気がする。

いつの間にか走るのをやめた晴がゆっくりと歩きながら改札をくぐり、ドス黒い怒りのオーラを撒き散らしつつ真っ直ぐコッチにやってくる。
なすすべもなくちんまりとベンチに縮こまった私は、キリキリと胃を痛めつつ、晴の到着を静かに待ち受けた。