ホテルから飛び出して、駅まで走った。休憩なしの全速力で。
頭は空っぽ。ただただ家に帰りたかった。
ゼイゼイと息を切らして券売機の前に立ち「財布財布・・」と伸ばした手がスッカスッカと虚しく空をきる。

「あ・・あれ?? ・・っあーーーーー!!!」

バッグ忘れた!! あの部屋に!!

仕方なく切符を買う列を離れて、近くのベンチにヘナヘナと腰をおろした。
「はーあ。やらかした・・・・どうしよう・・」
バッグなんか捨てたって構わないんだけれど、お金がないと帰れない。
どうやって家まで帰ろうって考える私に、もう一人の自分がストップをかける。

バカか、オマエは。
家じゃねーだろホテルだろ、と。
このまま帰ったら全部パー。
すぐさまホテルに引き返し、堤さんに謝り倒して愛人にしてもらえ。
厳しい私が弱い私を叱咤する。
・・・・のだけれど。



でもヤだーーー!!



愛人なんて・・セックスなんてできない。
ぞぞぞと悪寒が走って、お腹の奥がキュッと縮み上がった。
あの男の香水の匂いや、手のひらの感触。
混乱の中で感じた恐怖心。
リアルに蘇ってしまった負の記憶に震えつつも、だけどなあ・・と、私は頭を抱えた。

このままじゃなんにも変わらない。
晴の人生がムダになる。

ああ、私・・どうしたらーーー?