「そんな頭しといて信じられない」なんてブツブツ言ってた三花さんは、そこで「あっ」て何かを思い出した。ちょっと待ってて、って言って台所へと消えてゆき、しばらくして胸に小さなタッパーを抱えて戻ってきた。
「忘れるとこだった。これ、もらってきたの。ひとつしかなくて悪いんだけど、あんたたちで半分こして食べる?」
ニコニコとそう言いながら三花さんがタッパーの蓋を取る。
中には小さなモンブランがひとつ入っていた。


「「わあああ・・」」

久しぶりの甘いものに胸がときめいた。
色々節約してる私は、まず嗜好品や買い食いの類を生活から削ったのだ。
ケーキなんて・・ってゆーか、甘いものなんかもう自分じゃ絶対に買ったりしない。

「お、おいしそう〜〜」

三花さんは包丁を私に渡すと「紅茶煎れてきてあげる」って言ってまた席を立った。
ドキドキとモンブランをみつめながら、念のため隣の佐山に彼の嗜好を確認してみる。もしかしたら「オレ、甘いモンは苦手なんだよね」とか言うかもしれないと思って。

「ねえ、あんたコレ好き?」

黄色い頭したデカい男がこくりと素直に頷く。
ーーーくっそう。苦手って言わなかった!
あーあ。やっぱり半分こか・・

恨みがましくヤツを一睨みしてから、私は本体からそっと栗を外した。
まずはケーキの部分をきれいに二等分。そしてその後、まな板の隅によけといたツヤツヤした黄色い栗を前にして、私は「うーん」と頭を悩ませた。
ちょっといびつな形をしているその栗は、どこで割ったらきちんと半分になるのかがすごーくわかりづらかったからだ。
ほんのチョットでも損したくない。キッチリ半分栗を食べるにはどこに包丁を入れるべきかーーー

「うーんんん・・どうしよう」

長々と迷う私にしびれを切らした佐山が勝手に私の手をつかむ。
「早くしろよ! そんなのどこだっていいだろが!」
んで、適当にぐいっと包丁を押してパカッと栗をふたつに割ってしまったのだ。

「あーーー!!!」

すかさず大きいほうの栗をつまんだヤツの手を、私はガッチリと掴み返した。
「ズルいっっ、食べちゃダメ!!」
「はああ!?」
意地でも栗を離そうとしない佐山と栗をめぐって掴み合いのケンカに発展。
ぎゃあぎゃあと争う声に慌てて戻ってきた三花さんが呆れる。

「なにやってんの、もう・・」

「もういい。オレいらない!!」
佐山が栗をポイと私の口に放り込んだ。
「っとに意地汚ねーな。おまえどんだけ食い意地はってんの!?」
ついでにもう片方の栗も一緒にねじこんでくる。
「こっちも食え」
「あ、そう。ありがと」
もぐもぐと栗を食べる私をスゴイ目つきで眺める佐山。

「ケンカ終わった? んじゃ、話しよっか・・」