ならさ。
その娘に手を出すのはどうだろう。
これはママへの裏切りじゃないかって私は思う。

だけど。

それを言うなら、私だっておんなじか。
私もママを裏切ってんのかーーー

黙り込んでしまった私に堤さんが困ったような笑顔を向けてくる。
「ゴメンね。気持ち悪いよね、きっと」って。
だけど私があんまりママに似てるから、って堤さんは言うのだ。

「どうしても千花ちゃんを忘れられないんだ。ダメ元で声かけてみたんだけど、言ってみるもんだね」

私はこれにも首をひねった。正直、私には理解できない。
だけどまあ、別にいっか、とも思う。
生活の保障さえしてもらえれば、そんなことはどうだっていいのだ。
あとは晴が新しい場所で新しい生活を始めてくれれば、それで。

ーーーと。私はなるべくカッコよく、大人ぶって自分に言い聞かせた。

香りのいい小さなお肉を切り分けながら、卒業後の生活を妄想してみる。
2年たったら私もこの街を出よう。
知ってる人がだーれもいない知らない街へ行ってイチからスタートを切る。
そしたらそこで、また新しい恋ができるかもしれない。
晴じゃない、誰か別の人と。

「一花ちゃん。どう? ここのお料理美味しい?」

堤さんがワイン片手にニコニコと私をみつめる。
さっき「気分がいいから一杯だけ飲んじゃおう」って注文したワインだ。しゅわしゅわと泡のたつ透き通ったお酒を飲みながら、のんびりと食事を楽しむ堤さん。
余裕ありありの大人に負けてはいられないと「スッゴク美味しいです」って答えてはみたものの、実のところ料理の味なんて全くしなかった。