少し早めにホテルに入って、ロビーの大きなソファに座って堤さんを待っていると、彼は約束の18時ちょうどに現れた。

「お待たせ。ごはんに行こうか、一花ちゃん」

堤さんの後について乗り込んだピカピカのエレベーターには、私たちの他にもキャリーケースを持ったスーツ姿の男性と高齢の上品なご夫婦が一緒に乗り合わせていた。男性は客室階で降りてゆき、ご夫婦のほうは私たちがこれから食事をするのと同じレストランに向かうようだった。

チン、て止まったエレベーターのドアが開くと、堤さんはまず高齢のご夫婦を先に降ろし、続けて私にも降りるように促した。ニコニコと微笑む堤さんはすごーくジェントルマン。
元々ママの恋人だった人だ。きっとムチャクチャ悪い人ってわけでもないのだろう。だってたかしさんもケンちゃんも、皆とっても優しかったのだ。
ふかふかのカーペットの上を歩きながら、堤さんもそうであればいいな・・と、私は考えていた。

お店に入った私たちが通されたのは、窓のすぐそばの席だった。
海のそばのホテルだからか、もう露骨に前面窓!みたいな仕様である。
まだ外は明るいけれど、日が暮れてきたらきっと夜景が綺麗なのだろう。
目の前には坂川の海が大きく広がっていた。