だってこれが最後のキスになのに。
こんなんじゃイヤだ。どー考えたって足りない。
一生の心残りになるかも、って思った時にはもう晴に縋りついていた。

「ヤだ、まだする!!」

シッカリ抱きついて晴の首に腕をまわしてぶらさがり「やっぱヘンだぞ。どーしたんだよ」って不審そうにする晴に、私は更にキスをねだった。
「どうもしないよ。キスしたいだけ。まだキスしてたい」
「えええ・・!??」
腰がひけまくる晴に強引に迫ってキスしてたら、晴の様子がガラリと変わって一気にキスが深くなった。今度はなかなか離れられなくて、いつまでもいつまでもキスは続いた。

ああ、溶けそう。
スッゴイ幸せ。今だけは。

それなのに私はなかなかキスに集中することができなかった。頭の隅に冷えた現実がチラついてどうしてもそれを上手に追い払えない。
考えちゃうのだ。
晴となら溶けそうなこんなキスも、堤さんとはどうだろう、って。
あの男とこんな生々しいキスができるだろうかーーー

怖くなって晴にしがみついたら、上ずった熱っぽい声で晴にささやかれてしまう。
「一花、今夜部屋行っていい・・?」って。

「・・あ。ええっと・・・・」

しまった。どうしよう。
誘ってるって思われちゃったんだ。絶対にそう。

ホントならそうしたい。初めては絶対に晴がよかったから。
1回だけなら・・って考えが何度も頭をよぎるけど、そうしちゃったら私はきっと堤さんのところにいけなくなる。
ギリギリと痛む胸をおさえて、私は晴に嘘をついた。

「ごめん。今、できない日」
「ーーーーハアア!??」

ぷりぷりと怒る晴に謝り倒して、私たちは思い出の海を後にした。
その夜、まだ機嫌の悪い晴と三花さんに「おやすみ」を言って逃げるように2階へあがった私は、引き出しの奥底からしわくちゃの名刺をとりだして堤さんの携帯に電話をかけた。こんなモノを捨てもせず、念のため一応保管しておいた自分のあざとさにうんざりする。
わずかなコールの後、すぐに「はい」と男の声が響いた。

居間ではまだ、晴と三花さんがテレビをみている。
私と堤さんの小さな話し声は、きっと下のふたりには聞こえない。