晴が当然のように窓際を譲ってくれたので、私は新幹線初体験の晴を差し置いて、行きも帰りも窓際のイイ席にちゃっかりと腰をおろしていた。

「晴、やっぱり席かわろう? コッチに座りなよ」
「いーのいーの。オレはここでいい」
「でも初めてなのにーーー」
「いーの!」

後ろから腕をまわして私の腰を抱くと、晴はぎゅっと顔をおしつけて私の髪に顔をうずめた。んで、メラメラとヤル気をみなぎらせながら決意表明をする。

「オレ絶対に家建てる!」

私が晴人くんと庭にいた時、英明さんに就職のことを相談してみたのだという。
「そしたらいい話がいっぱい聞けたんだ。ってのがさーーー」
晴が嬉しそうに声を弾ませる。

ふうん。何か色々、いい情報を手に入れられたんだね。
んでもね、私もすんごい学びがあった。
目の前がマックラになるような爆弾みたいな学びだったけれども。

つーんと鼻の奥が痛くなって、じわっと涙が滲みはじめる。
「どどど、どーしたんだよ!? なんで泣いてんの??」
「え、えと・・嬉し涙。今の話にカンドーして」
「マジで!?」
そわそわと顔をあげた晴が周囲の様子をコッソリと窺う。さっき上げたばかりのブラインドをジャッて下ろして、通路を挟んだ向こう側のおじさんが爆睡しているのをもう一度確認。私を窓際に囲い込んだ。

「オレ、一花を愛してる」

熱っぽく押し当てられた唇から、あったかい舌がせっかちに入り込む。
嘘でしょ、こんなところで!?・・ってビックリしたけど、すぐにどーでもよくなった。だっていつまでこんなふうにしてられるかわからないのだ。晴がしたいなら、どこでキスしたって構わない。
背もたれに頭を預け、圧しかかってくる晴の胸に必死でしがみついた。

私も晴を愛してる。
晴のために、自分の全てを差し出してしまいたい、と思った。

ただし、差し出す相手は晴じゃない。
未来の晴の隣に並ぶのも私じゃない。

だけど、それでもいいやと思えた。
晴が新しい幸せを掴んでくれるなら。