「ここ暑いでしょ? そろそろ中に入ろう」
遥さんにそう言われてリビングに戻ると、晴と晴人くんがテレビの前に座り込んで一緒にゲームをしていた。
晴の操作するキャラクターが大きな画面の中でもたもたと妙な動きを繰り返すたび、英明さんがアッハッハとツボってウケる。が、晴人くんはイライラと晴にダメ出しをしまくっていた。

「横じゃなくて前に進むんだよ! ・・・ああああ。そーじゃない、視点切り替えちゃダメ!! 元に戻して!!」
「視点ってどれで変えんの?」
「これ!! ねえ、なんでフツーに前が向けないの!?」
・・と、晴人くんが騒いでいる間に晴の動かしてたヤツが死亡。
「くそ、死んだ!! 兄ちゃん、ヘタクソ!!!」
「うるせー、チビ!!」
ケンカしながらぎゃあぎゃあとゲームを楽しむふたりはいつのまにかしっくりと馴染んで、昔っからの兄弟のよう。
私たちはしばし、男の子たちがゲームをする様子を楽しんだ。

が、しかし。
私の視線だけは明後日の方向ーーー斜め前に座る遥さんにのみ、ガッツリと注がれていた。英明さんに寄り添う遥さんの幸せそうな横顔に。

とんでもないタラシを相手に周囲もドン引くような激しい恋をしていた遥さんが、今は別の場所で別の人と、こんなに幸せそうに暮らしてる。
昔好きだった男と、今好きな男。
どちらを選ぶかと問われて「英明さん」って即答した遥さんの声が耳から離れない。

どんなに辛い別れの後にも、必ずまた次の出会いがある。
そしてその度に、人は何度でも本物の愛を育むことができるのだ。

テーブルに置きっぱなしにしてた紅茶はもう冷たくなっていた。そっとカップを持ち上げた手がブルブルと震える。

ーーー気づいてしまった。

『一花じゃなきゃダメ』だなんて、カンチガイもいいとこだった。
私じゃなくてもよかったのだ。
ってかむしろ、私とじゃないほうがいい。

まだまだ長い晴の人生。
おそらく私は、その中の通過点のひとつにすぎない。しかもだいぶ手前のほうの。
きっと、晴の幸せはもっとずっと先にある。