美味しい紅茶をいただきながら、互いの自己紹介や近況報告なんかをしていると晴人くんがふらりと戻ってきた。
実は彼、さっきお外で近所のお友達に遭遇。そのまま一緒に遊んでいたらしいのだが、冷蔵庫に眠る美味しいモノの存在を思い出した。
「ねえ、なんで今朝買ってきたケーキ出さないの?」
まだおやつには早いでしょと彼を宥める遥さんに口をとがらせ、晴人くんが晴を見上げる。
「お兄ちゃんもケーキ食べたいよね?」
その濁りのない透き通った目に晴がたじろぐ。

「おっ、おまえ・・可愛いな!」

英明さん譲りの愛くるしいタレ目の威力か、「お昼食べたばっかだけど、ま、いっかあ」と晴人くんの願いはアッサリと叶えられ、キッチンへ向かう遥さんのお手伝いをしようと私もその後に続いた。

遥さんちのキッチンには晴の理想をそのまんま形にしたような大きくて立派な食器棚があった。そこへ収められている素敵な器に「わあーー」と歓声をあげる私にふふふと微笑みつつ、遥さんは食器棚の隅っこから古ぼけたプラスチックのお皿を1枚取り出したのだ。
「ん?? ア〇パ〇マン??」
「そう。これ昔、晴が使ってたお皿なの」
佐山家を出る時に、なぜかこれ1枚だけを一緒に持ち出してしまったのだという。

「晴のケーキはこれにのせちゃおう」

もちろん晴は目を丸くした。
「全っ然覚えてないけど・・そっか。オレ、こんなの使ってたのか・・」
泣きそうな顔をしてケーキを食べる晴に胸がつまった。
ふと顔をあげると晴の向かい側では、やっぱり泣きそうな顔をした遥さんが唇を噛みしめている。

そうか。もう何年も前から、ここにはずうっと晴の居場所があったんだ。だって加賀山家の食器棚には、ちゃあんと晴のお皿も収められてた。
晴がそれを知らなかっただけ。

やっぱりここは、晴の家なんだーーー