売店で駅弁を買い、初めて見るナマの新幹線にメチャメチャ感動しながら車内へと乗り込んだ晴は、席につくなりテキパキとふたりぶんのお弁当を開封して、テーブルに並べ始めた。
「もう食べるの!? 早くない???」
「だって30分で着くもんね。時間なんかねーぞ」
「うそ、短あっっ」
驚く私に晴が呆れた顔を向けてくる。
「時刻表見てねーのかよ。スグだわ」

言われてみればたしかに、隣の県までチョット乗るだけだ。
あわあわと箸をとってたこめしをかき込み、半分食べたところで晴の焼肉弁当とチェンジ。お弁当を交換するついでに晴が私の口元をきゅっきゅとお手拭きで拭いはじめる。
「あっっ・・!!」
私は慌てて晴の手を振り払って小声で抗議した。
「コレするのやめてって言ったじゃん!!」
なんでかわかんないけど、晴はちょいちょいこれをやりたがる。思えば一番最初にラーメン食べに行った時からすでにこうだった。

一応毎回必ず文句は言うんだけど効果はない。デレっとした顔して「うるせえなあ、いいじゃん。怒んなよ」なんて言いながら、懲りずに何度でも私のお口を拭きたがる変な男、晴。
だけど私は男の子に口元を拭われるなんてイヤなのだ。
「イヤったらイヤ! かっこわるいから!」
横目で晴を牽制しながら、濃ゆくタレの絡んだお肉を慎重に口に放り込む。
ところが。

「あっっ・・!!」

絶対に汚れてなんかないのに、それでもやっぱり晴の手が伸びてくる。
唇の上を滑っていったのは、今度は晴の指だった。

「・・・」

頬をゴッと火照らせてだんまりと大人しくなった私に晴が機嫌よさげにへへへと微笑んだ。