残り少ない麻婆豆腐をつつきながら、晴が口を開いた。
「オレさあ、ここに来てから毎日がすんげえ楽しいんだよね。でもってオレの17年の人生の中で、今がいっちばん幸せ・・」
私と三花さんとを交互に見ながら、晴がじんわり頬を赤らめる。
「今の生活がずーっと続けばいいなって思うけど、それはきっと無理だから。オレは2年たったら一花と一緒にここを出る。一花とふたりで、いつまでもこんなふうに暮らしたいんだ」

「晴くん、そんなこと考えてたの・・」
ウルっときた三花さんの口元がお山の形にきゅっと歪んでふるふると震える。最近とみに涙もろくなった・・と漏らす三花さんの涙腺はアルコールの勢いも手伝ってか今夜もユルユルである。

「だからオレが向こうへ行かないのも進学しねーのも、オレがここにいたいせい」

グラス片手にゴシゴシと涙を拭い、三花さんが「わかったよ」って頷いた。
「なら晴くんの思うようにしたらいいよ。一花ちゃんともキチンと話して決めたんだよね?」
三花さんがくるりとこちらに顔を向ける。じいっとみつめられて、私は胸に渦巻く不安をひとりじゃ抱えていられなくなった。