遥さんを見送ると、三花さんは冷たくなった紅茶を回収して、新しく熱い紅茶をいれなおした。
さっきはダージリン。今度のはオレンジペコである。
どっちも紅茶好きの三花さんのお気に入りのフレーバーだ。
「はああ~」って一息つきながら、今度は3人でちゃぶ台を囲んだ。

「ーーー晴くん、ホントに大学行かなくていいの?」
おずおずとそう口にする三花さんにブレない晴が頑固に頷く。
「行かない。それよかオレ、さっさと就職するわ」
「もったいないなあ・・そんなに生き急がなくたって、のんびりコドモ時代を楽しめばいいのに」

そうなのだ。私もホントにそう思う。
思わず三花さんの言葉に頷いていた。

「そーだよ。大学ってすんごい楽しそうじゃん・・」

だってお金さえあれば、私も大学に行ってみたかった。
大きなキャンパスを歩いてみたいし、学食でお昼やデザート食べてみたい。サークルにも入ってみたいし、お酒が飲めるようになったら飲み会ってやつにも出てみたいーーー

自分がそうだからか、余計に思うのだ。
晴だって大学に行ってみたいに違いない、って。

「晴、大学行きなよ。もったいないよ」
うっとりと妄想を膨らませる私を晴がゲンナリとした表情でみつめる。
「おまえ、ほんっとにいい性格してるぜ。うらやましーわ」

私からプイと顔をそむけて、晴が三花さんに向き直った。
「おばちゃんお願い。高校卒業するまでオレもここにおいてくれない?」
「うーん・・そりゃまあ、住みたきゃ住んでたっていーけどさあ・・」
だけどね、って三花さんが晴をみつめる。
「さっきの先輩の話、もいちど冷静によーく考えてみなよ。ね?」
ハイハイわかったよ、って適当な返事を返す晴に三花さんはそれ以上何も言わなかった。