私をみつめる晴の黒い瞳が不安げに揺れる。
そっか。そうだよね。
小手先の上っ面の下にホントの気持ちを隠したままじゃ何も伝わらない。
胸の中の『本当』を伝えないと・・・・

膝の上で握りしめたグーにぎゅうっと力をこめて、私はおずおずと口をひらいた。

「あのね、みんな晴に幸せになってほしいって思ってるんだよ・・」

私たちの『気づかないフリ』は、晴が大事で大事でたまらないから。
晴のために何がベストかを考えれば、答えなんておのずと絞られる。

晴は向こうへ行くべきだ。

向こうへ住所を移すだけ。たったそれだけのことで、ここじゃあ絶対に手に入らなかったモノが、嘘みたいに簡単に手に入っちゃうんだから。
進学も。就職も。その先の未来も。
きっとその全てが、可能性に満ち満ちたものになる。
私たちは、ただ、それを願っているだけ。

晴が、好きだから。

「だから私に遠慮なんかしてほしくない、ってのが私のホンネなんだけど・・」

必死でしゃべって、ゼイゼイと肩で息をつく。
私なりの全力の真心のつもりだった。

なのに、である。

「違う!! 気持ちはスゲー嬉しいけど、そーじゃねんだよ!!」
「え゛・・・!?」

私の渾身の訴えをバッサリと両断し、ブンブンと首を横にふりまくる晴に、私はガーンと放心した。

「な、何が違うの??」
「何がって・・ずーっと言ってんだろ!! 行きたくねえって!!」
「え・・・・」
「オレは本っっ当に行きたくねんだよ、遠慮なんかしてない。このまま一花と一緒にいたい。これが唯一にして絶対のオレの望みなの!!」
もどかしそうに。だけど、必死で何か懇願するような目をして晴が私をみつめる。
「イヤだ、行かない。オレはこのままここにいる」

向こうへは行かない。
進学もしない。
高校を出たら一花と結婚する。

晴は最初から最後までひとつも変わらぬ主張をもう一度繰り返し、紅茶のカップを手に取った。
「じゃ、そーいうコトだから。心配かけてゴメンね。んで、ありがと」
ふう、とひと息ついて紅茶をすすり始めた晴に、ハッと我に返った大人ふたりが慌てる。

「いやいやいや。勝手に終らせないで!」
「そーだよ、まだ結論なんて出てないでしょ!?」
「ハア!?? 結論は出てる!! オレの話、聞いてた!?」

その後、若干感情的になった4人の話し合いはモメにモメた。
だけど結局、誰が何を言ってもダメで、晴は意地でもここに残るといって譲らず・・

「自分のことは自分で決める。オレのすることに口出さないでくれる!?」
「で、でもね、晴ーーー」
説得を諦めきれない遥さんを、晴は静かに遮った。
「これがスゲーいい話なんだってことはちゃんとわかってる。オレのこと考えて言ってくれてんのも」

「だけどこれは、オレにとってのベストじゃない。バカだと思われてもいい。オレは一花のそばにいる」

迷いなく、晴はそう言い切ったのである。