しかし晴はすんごく面白くなさそうな顔をして「イヤだ。行かない」を再び繰り返したのだ。
今ここに漂う空気を丸ごと無視して、さっきと1ミリも変わらない主張を全く同じように口にする晴。きっと大人の目には『子供の我儘』としか映らないであろう言い分をひたすら言い募れる晴に、私はチョット目を見張ったのだ。スゴイなって。

大人ふたりを相手に言うだけ言ったら、その次は私の番だった。
くるりと私のほうを向いた晴の顔は、それはもう物凄い不満顔でーーー

「おまえ、6年も遠恋する気なんてハナっからねーだろ。オレと別れたいの!?」
「そんなワケないでしょ!! 晴がビビってるだけじゃん。たっ・・たかが6年くらいどってことないもんね。私、ヨユーで待てるし、全然ヘーキ」
などとうそぶく私に、晴がイライラと恨めしげな視線を投げてくる。
「んなワケねーだろ!! オレらのどこにそんな余裕があるんだよ!? 金もスマホもねーのにどーやったら6年もおまえと繋がってられるか教えてくれよ!!」

「「「・・・」」」

だーれも何も言えない。
そんなの無理ってわかってるからだ。
だからこそ、あえてそこには触れないようにしてるんだから。

なのに、晴だけは違った。

「絶対行かない。オレが向こうへ行ったら、オレらは終わる」

おまえはソレを全部ちゃんとわかった上で言ってるんだろーな!! ・・と凄む晴に私は仕方なく小芝居を続けた。だって、私が「行かないで」なんて縋りついちゃったら晴の人生を閉ざしてしまうことになりかねない。
ここに残る身の私には、『気づかないフリ』をするしか選択肢がないのだ。

「だーいじょうぶだって。そんな心配しなくたってなんとかなるよ」

大袈裟だなあと、ヘラヘラする私に晴が眉を顰める。
「ーーーもしかして、オレとは遊びなの?」
「それ、本気で言ってる??」
「おまえこそさっきのゼンブ本気だったんだろーな!」

「・・・」

私は内心頭を抱えた。こんな難しい駆け引き私には無理だ。
でもってツライ。物凄く。

『笑顔で背中押して円満に晴を送り出す』

それは小手先のゴマカシでどーにかなるような簡単なモノではないらしい・・ということに、私はこの時初めて気がついたのである。