目を覚ますと、飛び込んで来たのは白い天井だった。まだ少し重たい体をゆっくりと起こす。横を見れば薄いピンク色のカーテンが引いてあって、ここが保健室だということを認識する。少しの物音も聞こえないから、今先生はいないのだろう。
「・・・大丈夫?」
ガラッと保健室のドアが開く音がして、すぐにカーテンが開かれる。顔を上げれば入って来たのは要で、心配そうにベットの横の椅子へと腰掛けた。時計をみれば1時間ほど眠っていたようで、先ほどよりも頭はすっきりとしているし、吐き気もない。ただ、残っていたのは恐ろしいほどの虚無感だった。
「千里が体調悪いの気づけなくてごめん、って謝ってた。」
要の言葉に俯く。心配性の千里のことだ、私が倒れたことに責任を感じてしまっているに違いない。申し訳なさで胸が締め付けられた。
・・・要はそのまま何も話さなかった。きっと、私が何かを言い出すのを待っていたんだろう。
「・・・要。」
しばらくの沈黙の後、口を開く。自分のものとは思えないほど掠れた声がこぼれた。
「さっきね。」
そこまで言って再び黙り込んでしまう。そこから中々言葉が続けられない私を、要はずっと待っていてくれた。うるさい心臓を落ち着けて、ゆっくりと、言葉を紡ぐ。
「・・・思い出せなかったの。」
声がどうしようもなく震えてしまって、必死に歯を食いしばった。
「・・・私、お母さんとお父さんの顔が思い出せない。」
私の言葉に、要が息を呑むのが分かった。
さっき千里に聞かれて、両親の顔を思い浮かべようとした。けれど、何も出てこなかった。本当に何も出てこなかったのだ。私の記憶の中には何もない。家族の記憶が、全くないのだ。・・・そんなはずはないだろう。だって一緒に暮らしていたはずだ。海外に行くまでは3人で暮らしていたはずなんだ。
あれ、でも、待って。2人は何の仕事をしていたんだっけ、どうして海外に行くことになったんだっけ、一度も連絡がないのはなんでだっけ、私元々どこでどうやって生活していたんだっけ。
どうして、私にあなた達の記憶がないの?
「っ・・・!」
「奈月!!やめろ!!」
混乱する思考に、頭の中で再びガンガン大きな音が鳴り始める。そんな私の思考回路を遮断するように、要は大声をだして私の腕を強く引っ張った。
「・・・大丈夫だよ。」
そう言って要は私の肩をさする。要の大声が、悲鳴に聞こえた。
「考えんなよ、大丈夫だから。」
その手も、声も、震えていた。苦しいほど、震えていた。
・・・大丈夫だと、そう言うのなら。
「・・・要。」
どうしてあなたはそんなに泣きそうな顔をしているの。
必死に笑おうとする要の顔を直視できなくて、それ以上何も言えずに俯く。・・・いや、言わなかった、の方が正しいのかもしれない。私が、今、何かを一つでも追求すれば。全てが崩れてしまうことが、分かっていた。
「・・・大丈夫?」
ガラッと保健室のドアが開く音がして、すぐにカーテンが開かれる。顔を上げれば入って来たのは要で、心配そうにベットの横の椅子へと腰掛けた。時計をみれば1時間ほど眠っていたようで、先ほどよりも頭はすっきりとしているし、吐き気もない。ただ、残っていたのは恐ろしいほどの虚無感だった。
「千里が体調悪いの気づけなくてごめん、って謝ってた。」
要の言葉に俯く。心配性の千里のことだ、私が倒れたことに責任を感じてしまっているに違いない。申し訳なさで胸が締め付けられた。
・・・要はそのまま何も話さなかった。きっと、私が何かを言い出すのを待っていたんだろう。
「・・・要。」
しばらくの沈黙の後、口を開く。自分のものとは思えないほど掠れた声がこぼれた。
「さっきね。」
そこまで言って再び黙り込んでしまう。そこから中々言葉が続けられない私を、要はずっと待っていてくれた。うるさい心臓を落ち着けて、ゆっくりと、言葉を紡ぐ。
「・・・思い出せなかったの。」
声がどうしようもなく震えてしまって、必死に歯を食いしばった。
「・・・私、お母さんとお父さんの顔が思い出せない。」
私の言葉に、要が息を呑むのが分かった。
さっき千里に聞かれて、両親の顔を思い浮かべようとした。けれど、何も出てこなかった。本当に何も出てこなかったのだ。私の記憶の中には何もない。家族の記憶が、全くないのだ。・・・そんなはずはないだろう。だって一緒に暮らしていたはずだ。海外に行くまでは3人で暮らしていたはずなんだ。
あれ、でも、待って。2人は何の仕事をしていたんだっけ、どうして海外に行くことになったんだっけ、一度も連絡がないのはなんでだっけ、私元々どこでどうやって生活していたんだっけ。
どうして、私にあなた達の記憶がないの?
「っ・・・!」
「奈月!!やめろ!!」
混乱する思考に、頭の中で再びガンガン大きな音が鳴り始める。そんな私の思考回路を遮断するように、要は大声をだして私の腕を強く引っ張った。
「・・・大丈夫だよ。」
そう言って要は私の肩をさする。要の大声が、悲鳴に聞こえた。
「考えんなよ、大丈夫だから。」
その手も、声も、震えていた。苦しいほど、震えていた。
・・・大丈夫だと、そう言うのなら。
「・・・要。」
どうしてあなたはそんなに泣きそうな顔をしているの。
必死に笑おうとする要の顔を直視できなくて、それ以上何も言えずに俯く。・・・いや、言わなかった、の方が正しいのかもしれない。私が、今、何かを一つでも追求すれば。全てが崩れてしまうことが、分かっていた。

