7時16分、1番ホームにて

中学生の弟は毎日チョコが食べれてご満悦だった。
 そして日付は2月14日になる。忘れないように完成したチョコを鞄に入れて、勢いよく登校した。



1月(湊士パート)
 湊士は初詣に来ていた。
人でごった返した道をかきわけてお賽銭を入れる。
(えーっと家内安全。交通安全。それから健康祈願。あとは――)
 神様も飽きれる量のお祈りをして、最後にもう一つお願いをする。
(彼女が健康でありますように)
 最後だけがっつり念を込め、1分は手をこすりつけていた。
「よしっ」
 満即したのか次はおみくじを引こうとする。そこで、
「あっ」
 遠めだが、美白の姿を発見する。どうやら家族で来ているようだ。
(邪魔しちゃ悪いな)
 そう思って違うおみくじの場所へ移動する。
 ものすごい行列だったが、慌てることなくじっと待つ湊士。
 そうして湊士の番がきた。
 シャカシャカおみくじの箱を振る。そして1本の棒を出した。
 番号はラッキーセブンの7番。これは大吉だろうと思っておみくじを見るが、
「あれ?」
 そのおみくじは、なんと白紙だった。
「なんじゃこりゃ?」
 湊士は引き直そうかと思ったが、これはこれでレアだと思い、持って帰ることにした。
 それから何事もない日が続く。正月休みも明け、また学校生活が始まる。
 7時16分。いつもの電車に乗ると、美白が会釈してくれる。
 その時、湊士は将来のとこについて考えていた。
「進学、か」
 その道を進むなら相当の角度が必要だ。だが、湊士の中ではもう決めていた。
「え? やめる? なにを?」
「だから、バスケだよ。今日退部届を出す」
 いきなりバスケを辞めると宣言した湊士に、凌悟は驚いていた。
「なんで?」
「俺、宮ノ王大学目指す。これからめっちゃ勉強頑張るわ」
「宮ノ王って……。彼女と同じ進路を目指すってことか?」
「まあな。バスケと両立できたらいいんだけど、俺じゃ無理そうだし。だからバスケを諦める。悪いな」
「そうか……。まあ、お前が決めたんなら文句は言わねえ」
 そう言ってくれたが、はやりどこか悔しそうだった。
「なあ、最後に1on1やらねえか?」
「ああ、いいぜ」
 こうして最後の朝練で、友でありライバルの凌悟と対決することに。
 バスケの勝負は結構すぐに終わる。1回だけならあっという間だ。だというのにこの勝負は長引いていた。とういうのも、凌悟がいつもより気合が入っていて湊士がなかなか攻めきれない。
「くっ!」
「させねえ!」
 ドリブルで抜きに行こうとしてフェイントを入れても引っ掛からない。焦った湊士は、フェイダウェイという後ろにジャンプしながらシュートする技を披露する。
「これでっ!」
 決まる。そう思っていた。
「うぉぉぉぉおお!!!」
 しかし、凌悟のスーパージャンプでボールが叩き落とされる。
勝負あり。凌悟の勝ちだ。
「あーあ。負けちまったか。勝って去れたらかっこいいなってちょっと思ってたんだけどな」
「ようやく、俺の勝ちだ」
「ああ、負けたよ」
 二人は汗だくになりながらも握手する。
「俺はバスケを頑張ることにする。お前はお前で頑張れよ」
 その言葉に違和感を感じ、凌悟に問いただす。
「待てよ。昴のことも頑張れよ」
「フラれた」
「え?」
 たった一言。それにすべてが詰まっていた。
「正月休みにな。昴から電話があって、自分の気持ちが恋だって気付いたそうだ」
「え、いや、でも」
「わかってる。お前はあの子が好きなんだよな。お前はそれでいい。昴もわかってる。わかってるから、昴をしっかりフッてやってくれ。そしたらあいつも、前を向けると思う」
「…………今のお前みたいにか?」
「まあな。正直吹っ切れた。ここ数か月のもやもやが嘘みてーだ。だから、頼む」

 凌悟はそう言って頭を下げた。そう言われては断れなかった。
「……いつ告白してくるか、わかるか?」
 凌悟は頭を上げ、その日を伝える。
「2月14日。つまりバレンタインだ」
「なるほど。そりゃ、女の子が告るには絶好の日だな」
「そういうこった」
 そう言って凌悟は体育館を後にする。
「じゃあな。相棒」
「ああ、世話になった」
 まるで今生の別れであるかのような挨拶を交わした。
 そして日付は2月14日を指していた。
 その間、湊士は凌悟と一切口をきかなかった。