学校が見えてきて、校門を通ろうとした瞬間。
 ふと、誰かに声をかけられた。
 
 「あ、すいません...」
 見慣れぬ男性である。
 「はい...」
 「あの、これ...。」
 そう言ってカバンから取り出したのは私が落としたパスケースだった。
 「あ、それ、私のパスケース...」
 「この前電車で落としましたよね、学生証入ってたんで...
 あっ、迷惑かなとも思ったんですけど......」
 「あっ、いえ、助かりました!ありがとうございます!
わざわざこんなところまで」
 「あっ、よかったです。...じゃあ、僕はこれで...」
 「あっ、ちょっと待ってください。良かったらこの後お礼にお茶でもどうですか?」
 咄嗟に口から出てしまったが、迷惑ではなかっただろうか。
 「あっ、えっ...と」
 彼は少し戸惑いながらもお茶をするという流れになった。
 私は学校で書類をもらって、すぐに二人でカフェへと向かうことにした。
 
 ーカランカラン
 「いらっしゃいませー」
 カフェで一息つく二人。
 「ほんとに助かりました」
 「全然です。良かったです。お役に立てて」
 「ここら辺の方なんですか?」
 「あっそうなんです。会社が近くにあって、ここら辺もよく来るので。
 実はまだ入社して二年しか経ってなくて、まだこの街もそんなに知らないんですけどね」
 「そうなんですね」
 コーヒーを飲みながら軽く話す。
 
 少しの時間が経って、一緒にカフェを後にする。
 「では、これで」
 「はい、本当に助かりました。ありがとうございました。」
 「こちらこそ、ごちそうさまでした。」
 
 ー自宅ー
 「えー!絶対やばいってそんなの!」
 梨乃の高い声が部屋中に響き渡る。
 梨乃とは大学で知り合った。私が大学一年生の時、一人で授業を受けていたら、梨乃が話しかけてくれたのである。それをきっかけに仲良くなった。今では気の許せる一番の友人で、明るい梨乃にこれまで何度も助けてもらった。
 「えーでもすごい良い人だったんだよ。良かったよ。拾ってくれた人が良い人で」
 「まあ確かにそうかもしれないけど、お茶に誘うとはね。あんまりそうゆうことするタイプじゃないよね?珍しいね」
 「...うん、自分でもちょっとびっくりしたんだよね」